高校ビブリオバトル2017
過去と未来をつなぐノート。未来の彼は過去の彼女を救えるのか
『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』
天沢夏月
野村紳二くん(沖縄県立那覇西高校2年)

この本の表紙には男女二人が描かれています。海辺に学校の制服姿で並んでいて、恋人同士でしょうか。しかし、次のページを開けると女性がいなくなっています。男性一人だけで、制服ではなく私服姿。手にはノート、地面にはラムネ瓶が落ちているという絵です。
表紙と次のページの絵のつながりは気にしていなかったのですが、読んでいくと、そこには接点があることがわかりました。なぜ彼女はいなくなっているか。なぜ男性はノートを持っているか。なぜラムネ瓶が落ちているか。この3つのキーワードを踏まえてお話しします。
主人公の成吾は、4年前に病気が原因の事故で彼女を亡くしています。そのショックで故郷に帰らず、ずっと東京で暮らしていました。ある日友人に「成人式くらい来いよ」と誘われて故郷に帰り、彼女の家にお線香を上げに行って1冊のノートを見つけます。それは自分と彼女との交換日記。成吾はそのノートを持ち帰り、自分の家で思い出に浸っていました。そして思わずそのノートに「なぜ死んでしまったんだ」などと溢れ出た感情を書き、そのまま眠ってしまいました。
翌日、そのノートには、自分の書いた文字の下に見覚えのある彼女の字で「あなたは誰ですか?」と書いてあるのを見つけました。それに返事を書くと、また返事が帰ってきます。こうして会話を続けていくうちに、成吾は死んだはずの彼女と未来の自分がつながっていることに気づくのです。そして、成吾はふと思います。もしかしたら、未来から彼女を救えるのではないか、と。そしてこの日から、未来と過去をつなぐ、彼女を救うための物語が始まっていくのです。
僕はこの作品はストーリーだけが魅力とは思いません。先ほどの3つのキーワード、「なぜ彼女はいなくなっているのか」「なぜノートを持っているか」「なぜラムネ瓶が落ちているか」。彼女がいなくなっているのは事故で亡くなったから。ノートを持っているのは過去と未来をつなぐ交換日記だからでした。では、なぜラムネ瓶が落ちているのでしょう。
僕は、ノートがいちばん重要なキーワードだと思っていましたが、よくよく読んでみるとラムネ瓶がいろいろと関わってきています。ぜひこのラムネ瓶に注目して読んでみてください。
僕には、本を買う時、いちばん後ろのページを開いて最後の行を読む癖があります。最後の行が本のタイトルになっていることはよくあるのですが、この本の最後の行には「八月の終わりは、きっと世界の始まりに似ている。」と書かれていました。タイトルは「終わりに似ている」なのに、最後は「始まり」になっている。この最後の1行は、この本の中で成吾がどう変わっていったのかを読み取れる1行になっています。ここにも注目して読んでください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
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矢沢夏月さんです。

作家では五十嵐雄策さん、ジャンルでは恋愛系の本が読みたいと思います。