高校ビブリオバトル2017
人を感動させるスピーチに最も大切な一文字とは
『本日は、お日柄もよく』原田マハ
丸岡翼くん(佐野日本大学高校[栃木県]2年)

本日は大安です。そして「全国高等学校ビブリオバトル決勝大会」の場に立てることを本当に幸せに思います。
さて、今回私が紹介する本は、今の私の心境を表したような 『本日は、お日柄もよく』です。この本は冒頭1ページ目にスピーチの極意10か条が書いてあります。小説ではありますが、私にとってスピーチの指南書と言っていい本です。
小説は、主人公の二ノ宮こと葉の幼なじみの披露宴での、日本有数の牛丼チェーン店・吉原家の社長のスピーチから始まります。それは、こと葉が思わず舟を漕ぎスープ皿に顔を突っ込んでしまうくらい退屈なものでした。
そして、もう一つのスピーチにも出会います。それは会場の全員を惹き付け、あたたかな気持ちにさせ感動の涙を流させるものでした。そのスピーチをした人こそ、やがて主人公の人生をも変えていく言葉のプロフェッショナル、スピーチライターの久遠久美でした。
こと葉は、友人の披露宴でスピーチをすることになり、原稿を書いてもらおうと久遠久美を訪ねます。そして、その友人の披露宴の当日、またまたあの吉原家の社長と遭遇します。しかし、社長のスピーチは前回の退屈なスピーチとは打って変わって素晴らしいものになっていました。余裕すら感じさせる落ち着き、エピソードに込められたユーモア、スピーチの長さもさることながら、何よりも話の中に登場する人物、つまりは新郎新婦が魅力的に輝いているのです。なぜ…?
そこにはやはりスピーチライターの存在がありました。前回とはあまりに違う吉原家の社長のスピーチに、感動と動揺が一気に押し寄せてきたこと葉は、次に自分が呼ばれていることに気が付かないほどでした。
そんなあせりの中、一枚の紙切れを握りしめてマイクの前に立ちます。そして、今の私のように手も脚も震える極度の緊張の中で、そのメモを開き、3秒間だけ目を閉じてからスピーチを始めます。そのメモに書いてあったのはたったの一文字。その一文字こそが、スピーチの大基本であると久遠久美から渡されたものでした。その文字とは…。
ところで、私はこの本を読むまでスピーチライターという仕事を知らなかったのですが、単純にスピーチの原稿を作る専門家ではないのです。相手の心に寄り添い、相手が思っていることや訴えたいことを引き出し、言葉の持つ限りない可能性を信じ、人の心をゆさぶる言葉を紡ぎあげていく。スピーチライターとは、そんな仕事です。
この本には披露宴の祝辞、弔辞、企業の社長の挨拶、選挙演説、さらには総理大臣と野党党首の党首討論など、心があたかかくなったり、思わず膝を打って納得したり、涙を誘われたり、心を打たれるスピーチがたくさん出てきます。
その中に印象深い指摘があります。アメリカの大統領選挙の時の、オバマ前大統領とヒラリー候補の演説について。当初圧倒的に不利だったオバマが、ヒラリーに勝つことができたのは、とにもかくにも演説の力です。オバマの「Yes, We can」はあまりにも有名ですが、その時彼が言い続けたのは「we=私たち」でした。一方、ヒラリーは「I=私」と言い続けたそうです。聴衆は「we」の中に自分も含まれていると確かに感じ取った…というくだりがあります。そして、もう一つのキーワード「c・h・a・n・g・e=チェンジ=変わる」。この「change」の「g」を「c」に変えると、そう「chance=チャンス」になるのです。
人間は自分を、そして国をよりよく変えたいという願望があると思います。前オバマ大統領は「we」と「change」を見事に自分の「chance」とし、国民の気持ちを鼓舞し、歴史的な結果を残したと言えるのではないでしょうか。

物語の後半は、怒涛の展開が待っています。政治家や政治の裏側、そこで影武者のように動き火花を散らす大手広告代理店社員とスピーチライター。私は読み終わったあとに、潜在的に人間が持っている豊かな感性を改めて感じ、それを言葉にできた時、その言葉が持つ力に感嘆しました。
読み終わったあとに、きっと冒頭1ページ目のスピーチの極意10か条を見直し、二度読みすることと思います。この本を読めばスピーチマスター間違いなしです。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『はてしない物語』
ミヒャエル・エンデ(岩波書店)
書名のとおり、果てがない物語です。その様々な話の中のつながりや関係を自分の中でつなげたりしているうちに、自分もこの本の中の登場人物の様な気がしてくる、他の本にはない要素が多く詰まった素晴らしい本です。
[出版社サイトへ]
『世界でたったひとりの子』
アレックス・シアラー(竹書房)
私の好きな翻訳家の金原瑞人さんが訳していたため、気になって手に取ったのが、この本に出会ったきっかけです。独特な美しい言葉使いや、キレイでどこか寂しい世界観に何度も惹きつけられました。

丸岡くんmini interview

様々な伏線が、最後に一気に回収される話が好きです。好きな作家は、星新一と伊坂幸太郎です。

『かたあしだちょうのエルフ』という絵本です。この話は、みんなから頼られていただちょうの「エルフ」が、とある事件を境に周りの力を借りなければならなくなります。それでも彼は、自分ができること、役に立てることを必死でやりきります。その生きざまが、小学生時の私の心を惹きつけて離しませんでした。

今まで挑戦してこなかった「イヤミス」に挑戦してみたいです。