高校ビブリオバトル2017
不器用でも情けなくても意味がある!10代を軽快に駆けていく
『永遠の出口』森絵都
小林以呂羽さん(和歌山県立那賀高校2年)

私は、昔から「特別」という言葉に弱くて、「特別に差し上げます」とか「特別におまけしておきます」などと言われると、たとえ損をしていても得をしたような気になってしまいます。このままではいつか深刻な損をしてしまいそうで、気をつけなければいけないと思っています。
こんなふうに、きっと誰もが、コレを言われると弱い!という、弱点になりうる言葉を持っていると思います。この本の主人公である紀子もそうでした。彼女は、「永遠にできない」と言われると、狂おしい気持ちと焦燥感にかられてしまう女の子でした。この本は、彼女がそこから抜け出して軽快に10代を駆け抜けていく、そんな一冊です。
この本の3つのポイントをお話しします。
1つ目。作者の森絵都さんは、多くの作品でたくさんの賞を受賞されている女性小説家で、中でも有名なのは、映画化もされた『カラフル』でしょう。この作品で森さんは注目を集め、児童文学の旗手と称されるようになりました。そして、森さんが児童文学の枠を超えて初めて発表した作品が、この『永遠の出口』です。
2つ目は本の内容について。この本は、最も多感な時期である小、中、高校時代を一冊に詰め込んでいます。そして、だんだんと成長していく紀子の姿が、とても鮮やかに描かれています。
小学生時代には、友人との関係や、その友人の向こうに透けて見える各家庭の親の存在、先生によるカースト制度などが描かれています。友人と過ごす中で、意識せずともその親を身近に感じとっていたことや、無条件に先生が怖くて偉大な存在だったということなど、誰もが持っている幼少の記憶を呼び覚ましてくれるような内容です。
中学生時代には、友人や親との摩擦からくる思春期特有の孤独感が描かれています。一人で生きているような顔をしているけれど、それは誰にも受け入れてもらえない寂しさの裏返し。そんななかで紀子の見つけた新たな居場所。そこがなかなか衝撃的です。
高校生時代は恋愛や進路など、すべてに対するヤキモキした心情は、今まさに高校生である私からすると、自分の日々を俯瞰で見ているような気持ちになりました。
いつの時代も、その時は必死で、少し落ち着いてから振り返るとちゃんと意味があった。ではその振り返る地点とは、いったいどこなのか。その答えを、この本は導き出してくれます。
3つ目、特におすすめしたいポイントが、文の調子です。紀子の成長とともに、文の調子や言い回しがだんだん難しくなっていきます。例えば小学生時代では「ずんずん歩く」とか「手のひらをぶらぶらする」などの擬音語が多いのに対して、高校生時代では「驚天動地の大事実」とか「懊悩していた」というように、およそ小中学生では耳慣れないであろう言葉が出てきます。
小学生から高校生までの時代を通して違和感なく読めるのは、そんな些細な変化があるからでしょう。そういう視点で読み進めていくのも面白い作品です。

今も昔も「青春」をテーマにした物語は多いですが、その中では、夢のような生活や血の滲むような努力などが、美しく楽しいものとして描かれがちです。それはそれで素晴らしいものですが、現実からかけ離れていることが多いと感じます。でも、この本は、もっと不器用で情けない、それでもちゃんと意味がある青春を送る。物語と現実とのギャップに入り込んでくる一冊です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『池袋ウエストゲートパーク』
石田衣良(文春文庫)
初めて読んだのは中学生の時でした。一話完結型なので気軽に手に取れ、文章が読みやすかったのもあり、さくさく読み進められました。登場人物が魅力的で、世界観が当時の私にはとても新鮮でした。
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『こころ』
夏目漱石(文春文庫)
言わずと知れた名作ですが、やはり昔に書かれたのもあって少し言葉が難しく手を出しにくくもあったのですが、思い切って読んでみると清らかな言葉の数々、そしてそれらが織りなす美しい情景描写にすっかり魅了されました。読むたびに印象が変わる一冊です。
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『封じられた街 北風のポリフォニー』
沢村鐡(ポプラ社)
「北風のポリフォニー」と「薄氷のディープシャドウ」の二冊から成るのですが、この本と出会った小学校の図書館には一冊目しかなく、急いでインターネットで二冊とも購入しました。味わい深く続きが気になる本で、どこか絵画的なところも大好きです。
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小林さんmini interview

石田衣良さん、有川浩さん、太宰治さん、貴志祐介さん、大沢在昌さん、森絵都さん、金城一紀さんなど、その他にもたくさんの好きな作家さんがいます。ジャンルにはあまりこだわりがなく、気になったものを読んでいます。

香月日輪さんの「地獄堂霊界通信」シリーズが大好きでした。目に見えない存在と戦う少年たちの姿に、自分もそんなかっこいい生き方をしたいと思いました。

小野不由美さんの『屍鬼』です。とても分厚いのですが、読み応えは充分にあり、自分が登場人物の一人になったような気分になれたのが印象的でした。