高校ビブリオバトル2017

怪しげな夜の市に迷い込んだ、記憶喪失の少年の運命は…

『夜宵』柴村仁

岩村柚希さん(宮崎県立高鍋高校2年)

『夜宵』(講談社文庫)
『夜宵』(講談社文庫)

皆さんは市場に行かれることはありますか。朝市だったりフリーマーケットだったり、いろいろありますが、宮崎には軽トラックの荷台に商品をおいて販売する「軽トラ市」というものがあります。私はその軽トラ市に月に一回ほど行くのですが、おいしいものがたくさんあるし賑やかだし、行くたびに元気をもらいます。

 

紹介する『夜宵』も、とある市が舞台です。この市は、ある湖に浮かぶゴーストタウンという世間とは隔離された空間で、秋の終わりから大晦日にかけての夜の間だけ開かれる「細蟹の市」という市。「細い蟹」と書いて「ささがに」と呼びます。

 

この細蟹の市では、不老不死の粉や謎めいた薬、はては生首と、ないものはないと言われるほど何でも売っています。いったい誰が買うのかというものばかりですが、人々はふだん手に入らないこのようなものを求めて、船や浮き橋などを使って、わざわざこの市にやってきます。

 

想像してみてください。私たちが生活しているこの世界の片隅で、ひっそりと開かれている怪しげな夜市。なんだかワクワクしませんか。

 

この市にいる間は人間であってならないため、お面などをつけて顔を隠さなければなりません。お面をつけていないと、市のルールを知らずに迷い込んだ迷子と見なされ、サザと呼ばれる役人に保護をされます。サザに保護された迷子の少年カンナが、この物語の主人公となります。

 

カンナは保護された時は記憶がまったくなく、帰る家もなかったため、サザとともに暮らすことになり、この奇妙な市に関わりを持つようになっていきます。この物語の重要人物であるサザは、白いおじいさんのお面に黒い和服、肩からふわふわ動く不思議な布をかけているという、とても独特な服装をしています。

 

サザは謎の多い人物で、わかっているのは一人称が「わたし」ということだけ。サザの性別ですが、これはネタバレになるのでここでは言えません。戦うかっこいい女性か、それとも市を守るクールな男性なのか。それは読んでからのお楽しみです。

 

これだけでは、奇妙な市の不思議な話ということになりますが、実はこの物語には恋愛要素も入っています。私は恋愛ものが大の苦手で、恋愛ドラマや映画も恥ずかしくて見ないのですが、この『夜宵』だけはなぜかスーッと入ってきました。カンナが市で過ごすようになったあと、まことという女の子と出会います。二人はまるで兄弟のように仲良く少年期を過ごします。

 

やがて歳を重ねるにつれて、二人の間に恋心が芽生えます。かがり火の真っ赤な光に照らされた幻想的な遊園地で、冬の間だけ会うことのできる二人。まるで映画のワンシーンのようで素敵です。

 

しかし二人の淡い恋は長くは続かず、魔の手が忍び寄ってきます。昔サザと一緒に仕事をしていた男が、細蟹の市に戻ってきたのです。その頃から、まことはカンナに「市を出たほうがいい」と言い、姿を見せなくなります。

 

そして事件が起こります。細蟹の市が壊され始めるのです。店は燃やされ、客や商人は無差別に殺されてしまい、市の中心部は地獄絵図のようになります。肝心のサザは監禁され、カンナは男に傷を負わされて真冬の冷たい湖に突き落とされてしまいます。

 

サザは、カンナは、助かるのでしょうか。細蟹の市はどうなってしまうのでしょうか。男はなぜ市を壊すのか。サザとカンナはなぜ市を守ろうとするのか。謎は深まるばかりです。後半のハラハラする展開から目が離せません。

 

この物語、後半に大どんでん返しがあります。それは、これまで読んでいた物語がコロッとひっくり返るくらいの迫力です。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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岩村さんmini interview

ミステリー、ダークファンタジーが好きで、逆に恋愛系はあまり読みません。好きな作家は伊坂幸太郎さん、柴村仁さんです。

ビブリオバトルで発表した『夜宵』です。あの本を超える作品にはまだ出会えていません。

柴村仁さんの他の作品が読んでみたいです。作品では、『プシュケの涙』が気になっています。