高校ビブリオバトル2017

「前向きに生きる」意味を、晴れ男と二人の神様が教えてくれる!

『雨の日も、晴れ男』水野敬也

鍵 慶和くん(西大和学園高校[奈良] 2年)

『雨の日も、晴れ男』(文春文庫)
『雨の日も、晴れ男』(文春文庫)

落ち込んだときや失敗したとき、こんな言葉をかけられたことはありませんか。「そんなくよくよするなよ。もっと前向きに行こうぜ」。しかし、「いやいや、いつもお前みたいに前向きにいるにはどうしたらいいんだよ。そもそも前向きって何なんだよ」と、僕は思っていました。

 

そんな僕が、友達に勧められて読んだのが、『雨の日も、晴れ男』。主な登場人物は3人います。子どもの神様である、幼いシュナとワンダー。そして前向きな男、アレックスです。

 

ある日、シュナは「運命の手帳」という人の運命を変えられる手帳を拾ってきて、ワンダーと一緒に、地球上にいる誰かを不幸にしてやろうと持ちかけます。そこでターゲットにされるのが、ごくごく普通の生活を送っているアレックスです。

 

シュナとワンダーは、アレックスにどんどん不幸な出来事を起こしていくのですが、アレックスは持ち前の前向きさを生かしてそれに立ち向かっていきます。

 

おすすめしたい理由は2つあります。1つ目はアレックスの魅力です。アレックスは前向きな男ですから、何か彼から前向きに対して学べるかもしれないという期待を抱きます。

 

まずは最初の事件を見てみましょう。午前6時、彼の目覚まし時計が止まります。もし、目覚まし時計が壊れてしまって、遅刻してしまうかもしれなかったら、怒って目覚まし時計を壁に投げつけたくなりますよね。

 

アレックスもそうしようとしました。しかし、踏みとどまってこう考えるんです。

「そうか時計くん、君はもしかしたら疲れている僕を癒やすために、僕にもっと眠りを届けるために、必死にその針を止めていてくれたんだね。そうか、君こそ真の英国紳士だよ。そこまで君の意志が固いなら、僕ももう一度眠りにつくことにしよう」。そうしてアレックスは、堂々と二度寝をします。

 

ここまで読んで、僕は考えました。アレックスは前向きなんかじゃない、ただのバカなんだ。がっかりしたよ、アレックス。期待した僕がバカだった。

 

しかし、アレックスの魅力はそこではなかったのです。このあと、本の中ではもっとも大きな事件が起こります。午後7時、彼の家が燃えるんです。そして燃える家の中から息子を救い出し、家族と一緒に焼けた家を見た時に、アレックスはこの物語で初めて悲しみ、怒り、泣きます。ここで初めてアレックスは負の感情を見せたのです。

 

そこで僕は気づきました。そうか、アレックスはバカではない。僕たちと同じ不幸を感じながらも、それでも必死に抗い前向きであろうとする、僕たちと同じ人間なんだと。では、僕たちはアレックスから何を学べばよいのでしょう。

 

2つ目のお勧めの点が、シュナとワンダーの学びです。シュナとワンダーは、次第に自分たちがアレックスに対してしたことの重大さに気づき、アレックスに会いに行きます。そこで彼らは一つずつ大切なことを学びます。

 

シュワは、神様は人を不幸にすることも幸せにすることもできない。ただただ出来事を起こすだけであることを学びました。しかし、僕はシュワよりも、ワンダーの学んだ言葉にとても感銘を受けました。ワンダーの学びを見た瞬間、なぜ前向きに生きられるのか、前向きとは何なのか、という両方の答えがぱっと浮かんできて、世界がガラリと変わりました。

 

この本はコミカルな展開で進んでいきます。途中で挿絵もあり、とても読みやすくなっています。僕は最初に読んだとき、たった30分で読み終えてしまいました。しかし、その30分後には世界は一変していました。ただの面白い物語だけではなく、人生について大切なことを教えてくれるのです。

 

皆さんもこの本を読んで、僕と一緒に、アレックスと一緒に、『雨の日も晴れ男』『雨の日も晴れ女』になってみませんか。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>

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