高校ビブリオバトル2017
オタクの主人公が漂着したのは、過去の村?未来の村?それとも…
『太陽の村』朱川湊人
山本日和さん(島根県立津和野高校3年)

主人公は坂木龍馬という男で、趣味は美少女フィギアとまんが集め、そしてオンラインゲームをすること。どうにか週に3回、コンビニのアルバイトに行ってはいるが、それはもちろん美少女フィギアを買うため。それ以外の日は、8畳間の部屋で紙パック入りのコーヒー牛乳を飲み、キャラメルコーンをかじりながらパソコンゲームをしています。これが彼の至福の時で、この部屋は彼にとってのユートピアであり、彼は完全なるオタクというわけです。
この物語は、そんな彼がいやいやついていったハワイへの家族旅行の飛行機で起きたアクシデントをきっかけに、なぜか飛行機の乗客の中で彼だけがフタタという不思議な村の浜辺に打ち上げられてしまうことから始まっていきます。
この村の何が不思議かというと、ここは自動車もなければ電気、水道、ガスもない自給自足で人々が生活している超ド田舎だったのです。そして、そんな村に彼は違和感を抱き、自分が過去にタイムスリップしてしまったことと、この村から現実の世界に戻るすべを知らないことに気が付きます。
当たり前ですが、この村では、彼が平成の世でしていたような生活はできません。部屋にこもってのオンラインゲームも、紙パック入りのコーヒー牛乳もキャラメルコーンもお預けです。それどころか、海水のような味のご飯と茶色い汁しか食べられず、おまけにこれまでほとんど人と関わってこなかった彼が、村の人と関わりながら田起こしをして生活をしていきます。
どこの時代のどこの村なのか、なぜ自分だけがこんな村の浜辺に打ち上げられてしまったのか、何一つとしてわかりませんが、彼がこの村で生きていくためにはこれしか方法がないのです。
そんなフタタ村の浜辺に彼が漂着して約1ヶ月が経とうとしていたときに、彼はこの村で、なぜか、ここにはあるはずがないものを見つけてしまいます。それには「P・H・I・L・I・P・M・O・R・R・I・S」と書いてありました。それは、平成の世で売られているタバコのフィルターだったのです。
それに加えて、あることをきっかけに、大阪万博の時に創られた「太陽の塔」を見て、彼は今まで過去の村にタイムスリップしたと考えていたけれども、実はここは過去ではなく遠い未来の日本ではないかというひとつの結論を出します。そして、そのころから物語は大きく進み、衝撃のラストを迎えます。
この物語は、読みながらつい笑ってしまいそうになる表現がたくさん出てきます。特に主人公の自虐ネタには笑わない人はいないと思うほどです。
しかしラスト2章になると、物語の雰囲気がガラリと変わり、この村がどの時代のどこにある村かがわかります。この村の正体を知った時、きっと誰もがゾクゾクすると思います。私は実際、その文章を読んだ時に鳥肌がたちました。

この村の正体を知った時、彼はひとつの決断をします。正直、私は彼の決断にあまり納得がいきませんでした。そこで、ネットでその本を読んだ他の人の感想を見てみると、けっこう賛否が分かれていて面白いなと思いました。
さて、彼が漂着した村は過去だったのでしょうか、 それとも未来だったのでしょうか。そして、彼は平成の世に戻れるのでしょうか。鳥肌の立つほどの衝撃のラストとはいったい何なのでしょうか。そして、最後に下す主人公の決断を、あなたはどのように受け止めるのでしょうか。
<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
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『キャスターという仕事』
国谷裕子(岩波新書)
物事を多様な面から見て、その本質を見極める力が求められている時代だと改めて感じたのが、この本です。10代のこの時期に、この本に出会えてよかったと思えます。
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山本さんmini interview

好きな本のジャンルは恋愛小説です。好きな作家は有川浩さんです。

小学生の時好きだった本は「魔法の庭ものがたり」のシリーズ(ポプラ社)です。この物語の世界観に入り込んで、自分がこの物語の主人公になったらどうしようかなあと、日々妄想にふけっていました。

青柳碧人さんの『千葉県立海中高校』が読んでみたいです。実は、この本はビブリオバトルの全国大会で仲良くなった方が、教えてくださいました。早く読みたくてうずうずしています!