高校ビブリオバトル2017
突然「25年後の自分」になってしまったら。高校生の今だからこそ読みたい物語
『スキップ』北村薫
渡邊夏蓮さん(駿台甲府高校[山梨] 2年)

朝、目が覚めたら突然25年後になっていたとしたら、あなたはどうしますか。想像してみてください。まさにそんな事態を描いたのが、この小説です。
主人公は高校2年生の17歳、一ノ瀬真理子。ある日うたた寝をしていた真理子が目覚めると、そこは知らない人の家。そしてその家の少女に「お母さん」と呼びかけられます。そう、うたた寝をしていた真理子が目覚めると、25年後、42歳の自分になってしまっていたのです。もし私がこんな状況に置かれたら、「嫌だ。逃げ出したい」、そんなふうに思うでしょう。これから大学へ行って、勉強して、遊んで、辛い就活を乗り越えて、バリバリ仕事をして。いつかきっと恋愛をして、旦那さんができて、子どももできるのかもしれない。そんなふうに漠然と考えていた未来が突然目の前に突きつけられたら、到底信じられませんよね。
真理子はそんな状況に戸惑いながらも、25年後の自分自身、桜木真理子として生きていくことに決めます。高校2年生の心を持つ真理子は、今は国語の教師で、高校3年生を担任しています。授業はもちろん、部活の指導をしたり、時には学級日誌で生徒と交流をしたりしながら、25年後の自分自身、桜木先生として、拙いながらも前に進んでいきます。
印象的だったシーンは、25年後の夫と娘に、「自分は目が覚めたら42歳になっていた」と打ち明けるシーンです。夫と娘は、そんな受け入れがたい状況を信じて、真理子を支えてくれます。2人に支えられながら、真理子は「自分が自分であるべきものは、この2人に支えられていたんだ。家族の愛ってこういうものなんだな」と感じ、それまで自分の中でまったくわからなかった、無味無臭の愛というものが少しずつ色づいていきます。
話は変わりますが、私は朝起きるのがとても苦手です。今日も母に叩き起こされて、やっと布団から出ることができました。私ほどではなくても、皆さんも親に頼って生きている、生きてきたんじゃないかと思います。頼んでもいないのに「朝早く起きれば?」と口うるさく言われるのが、とても嫌でした。でも、それも家族の愛じゃないかと思います。家族がいるのはありがたいことなんだな。そういうふうに思いました。
物語の中では、先生である真理子に恋をする、イケメンで成績優秀な男子生徒の新田くんが現れます。「僕じゃだめですか?」と言い寄ってくる新田くんに、真理子は戸惑います。夫も娘もいるのに、ときめいてしまっている17歳の自分もいて、葛藤します。
私がこの本をおすすめするのは、読む人によって感想が異なるからです。本を読むとき誰しも、自分を主人公に投影して読むと思います。この本の主人公は、42歳の容れ物に入った17歳です。42歳に近い人、例えば先生、お父さんお母さんが読む場合と、私のような17歳、その近辺の中高生が読む場合とでは、絶対に違う感想が出てくると思います。だからこそ、たくさんの世代の人にこの本を読んでもらいたいし、たくさんの意味をぜひ皆さんと交換して共有したいと思いました。

私はこの本を母に勧め、母とこの本についてたくさん話をしました。誰が読んでも、自分の環境に置き換えて読める、それがこの本の不思議で、とても面白いところだと思います。今日は17歳の私から、皆さんに向けてこの本をおすすめします。今を生きる皆さんに、今の大切さを知ってもらうために、今読んでもらいたい本がこの本です。
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※単行本は絶版です
<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>