高校ビブリオバトル2017
勇気を持ってその一歩を踏み出せるか
『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン
下川詩乃さん(福井県立福井商業高校2年)

皆さんに想像していただきたいことがあります。まず目をつぶってください。皆さんは、広い迷路の中にいる一匹のネズミです。前後左右を高い壁に囲まれ、少し進むとすぐに行き止まってしまう、深ーい迷路にいます。すると、どこからかいい匂いがしてきました。皆さんの大好きなチーズの匂いです。そうすると、匂いに向かって真っ先に飛び出すネズミがいます。先にある危険を恐れて慎重に進む子もいます。チーズが見つからないかもしれないという不安にかられて、その場に留まってしまう子もいます。はい、目を開けてください。さて皆さんは、どんな行動を取るネズミでしょうか。一見童話のようですが、内容はとても奥深い。それがこの本、『チーズはどこへ消えた?』です。
この本は、実は、区分としてはビジネス書です。今から16~17年前に大ヒットした作品で、昨年作者のスペンサー・ジョンソンさんが亡くなったことをきっかけに、また話題になっています。私はこのビジネス書を、ぜひ高校生の皆さんに読んでいただきたいと思っています。
この本は3つのお話に分かれています。1つ目は、高校時代の同級生たちが集まって話をする場面です。それぞれが悩みを抱えていることがわかり、マイケルという男性が皆に話を持ちかけます。「『チーズはどこへ消えた?』という物語を聞いてみないか。僕はこの話を知ってから人生が変わったんだ」。その物語が、この本を構成するお話の2つ目の「チーズはどこへ消えた?」です。
この物語には、二匹のネズミと二人の小人が出てきます。みんなはチーズが大好物で、いつも迷路の中を探し回っています。ある日彼らは、大量のチーズがある「チーズステーションC」にたどり着きました。みんなは大喜びでチーズにかぶりつきます。小人たちは、一生そこで暮らしていこうと思っていました。ところが、事件が起こりました。毎日食べていたので、とうとうチーズがなくなってしまったのです。ネズミはすぐに新しいチーズを探しに行きますが、小人たちはなかなかその場所から離れられません。はたして、小人たちは新しいチーズを見つけることができるのでしょうか。
そして最後のお話には、1つ目のお話のその後が描かれています。マイケルからこの物語を聞いた同級生たちが、ディスカッションを行います。それぞれが物語をどう受け取ったのか、いろいろな解釈を楽しむことができます。
この本のどこがビジネス書なのでしょうか。お金儲けのヒントが得られるから? そうではありません。それは、ネズミや小人がチーズを探している姿が、まるで私たち人間のようだからです。新しい環境に足を踏み入れるのは、とても勇気のいることですよね。私がこの本と出会ったのは、自分が生徒会の副会長に立候補するか迷っていたときでした。失敗するかもしれないと不安で、なかなか立候補する勇気が出ませんでした。そんな時に、この本で出会った言葉があります。「もし恐怖がなかったら、何をするだろう?」。この言葉が、私の心に深く響きました。いったん自分を客観的に見て、恐怖のことを考えずに、「何かをする」ということに重点を置く。恐怖がないときの自分を想像してみる。まさに「失敗」という恐怖に悩んでいた私には、ぴったりの言葉でした。もし恐怖がなかったら、選挙運動を全力でするだろう。そう思って立候補しました。無事、副会長になることができたのは、私の背中を押してくれたこの本のおかげです。

私にとって広くて深い迷路は生徒会選挙で、チーズは副会長になることでした。皆さんにとってのチーズとはいったい何でしょうか。テストで良い点を取ること? 部活で良い成績を残すこと? そのチーズをどう探していくべきか、答えはこの本にあります。この本は、全部で94ページしかありません。今日買って帰っても、すぐに読めます。皆さんもこの本を読みながら、自分のチーズを見つけてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『異邦人』
カミュ著/窪田啓作訳(新潮文庫)
「太陽のせいで人を殺した」という衝撃的なワードと一緒に親から教えてもらいました。情景描写がすごく丁寧で、事件がまるで本当に起きたかのように感じて面白かったです。人の感情の表現もすごくリアルです。いろいろな小説があるんだなあと衝撃を受けました。
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下川さんmini interview

ミステリー、サスペンス、外国の小説が好きです。
作家では、カミュ、湊かなえさんが好きです。

『小公女』という本がお気に入りでした。お金持ちの女の子が一夜にして親なし子となって、ひどい扱いを受けるが、めげずに生きていくという話です。何回も泣きました。

『わたしを離さないで』の、真実をにおわせつつも、最後の最後まで明かさないという物語の組み方が印象に残っています。映画では、『メメント』や『ルーム』がすごく好きでした。

村上春樹の長編小説を読んでみたいです。また、今回のビブリオバトルのチャンプ本になった『横浜駅SF』も読みたいです。