高校ビブリオバトル2017
人の気持ちが見えるのは、すてきなこと?
『か「」く「」し「」ご「」と「 』住野よる
積 風我くん(鹿児島県立大島高校1年)

この本は、『君の膵臓をたべたい』を書いた住野よるさんの4作目です。男子2人、女子3人の5人の高校生が話を進めていきます。イケメンのヅカ、元気なミッキー、地味な京くん、内気なエル、パッパラパーなパラ。個性豊かな5人は、全員がちょっとした「かくしごと」を持っています。それぞれが違った形で、人の気持ちを見ることができるんです。そういう特別な力を持った5人が、友情や恋愛を育む話なのですが、人間関係を作っていく上で人の気持ちを見ることができるのは、とてもいいことだと思いませんか。
実は、そうではないんです。人の気持ちが見えることが災いして、逆に人間関係がギクシャクすることがよく起こっています。特別な力を持つ5人でも、普通の人間と同じように人間関係で悩んだり喜んだり、いろんなことを経験して、それを全部持って前に進んでいく。こういった部分がこの本の一番の魅力だと思います。
登場人物の個性がバラバラなのですが、これはつまり、必ず1人は共感できる人がいるということです。僕が共感しながら読めたのは、地味な京くんです。僕自身が学校では派手なほうではないので、この本に出てくる京くんの気持ちや行動、言葉、そういったことがとてもよくわかって、まるで京くんと一心同体になって、憑依したような感覚で読んでいくことができました。
京くんは元気な女の子ミッキーが好きで、ある日、ミッキーがたまにシャンプーを変えていることに気づきます。ミッキーがシャンプーを変えてきた日、ミッキーの頭の上には「!」が見えます。この「!」が、京くんが見ることのできる気持ちです。京くんは人の気持ちを「!」や「?」といった記号で見ることができるんです。「!」は嬉しい、楽しいといったプラスの感情です。
ミッキーがシャンプーを変えて楽しそうなのはなぜだろうと京くんは考えます。友達の家に遊びに行ったのかな?ただの気分転換なのかな? いろいろなことを考えるうちに、結局、ミッキーに彼氏ができたと思い込んでしまい、落ち込んでテストもろくに受けることができません。テスト中もミッキーのことが気になってちらっと見てしまう。するとミッキーは数学が嫌いなはずなのに、なぜか頭の上に「!」をいっぱい浮かべて、楽しそうにテストを受けている。何でミッキーは数学が嫌いなのに、あんなに楽しそうなんだろう…。あ、彼氏に教えてもらったところがテストに出て、よく解けるから楽しそうなんだ…。こういったふうに、どんどん妄想してしまうのです。
それからいろいろあって、京くんはミッキーに直接聞くことにします。「最近シャンプー変えた?何かあったよね」。するとミッキーの頭の上に浮かんだのはなんと、大きな大きな「!」でした。シャンプー変えたか聞かれてとても嬉しそうにしているんです。京くんのことが好きだから、という単純な話ではありません。この理由、気になりますよね。それは、本を読めばわかります。

この5人のバラバラな個性が最後にどう結びつくのかを見るのもとても楽しいです。また、この本は高校生が主人公なので、高校生には共感できるところがたくさんありますし、大人の方も、学生だった頃の気持ちを思い出して楽しんでいただけます。
1回読むだけでももちろん楽しいのですが、1回読んだだけではわからない言葉のつながりもとても多いので、2回目もまたさらに楽しい。そして、読み終わったら裏返していただいて、裏表紙にあるQRコードをお手持ちのスマホなどで読み取ると何が起きるか…。というのは私からのかくしごと、という形で終わらせていただきます!
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<全国高等学校ビブリオバトル2017 全国大会の発表より>
こちらもおススメ

『君の膵臓をたべたい』
住野よる(双葉社文庫)
表紙の絵がとても綺麗だったので読みました。ジャンルはおそらく「恋愛もの」だと思いますが、自分のなかでは「膵臓もの」という新しいジャンルが確立されました。多分、二度とこのジャンルの本は現れません。「1日の大切さ」、「生と死」の意味について、本当の意味でこの本に教わりました。
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『ふたご』
藤崎彩織(文藝春秋)
「SEKAI NO OWARI」の藤崎彩織さんの本です。元々このバンドが好きだったので読みました。「夏子」と「月島」の成長や仲間との出会いを描いたとても心温まる話です。いびつだけどしっかりと形のある「ふたご」。皆さんも手にとって、2人の成長を見てみませんか。
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『お茶が運ばれてくるまでに』
時雨沢恵一(メディアワークス文庫 アスキーメディアワークス)
カフェで「お茶が運ばれてくるまでに」読む絵本。ドキリとする、ウルッとする、元気になる、胸が痛む、答えを探す、好きな人に会いたくなる。そんな「心動く掌編」18編を収録(裏表紙より)。緊張した時や不安になった時、この本の中の「ばけもの」という話を読んで、心を落ち着かせています。
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積くんmini interview

ジャンルは問わず「面白そう」と思った本を読むことにしています。小説をよく読んでいます。好きな作家は住野よるさん、三秋縋さん、森見登美彦さんです。

『永遠の0』が好きでした。「臆病者」と呼ばれた、心優しきパイロットの話です。この本を読んでから戦争や平和についていろいろ調べ始めました。

『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』を小学生の頃に読みました。はやぶさは感情を持ちませんが、読んでいるうちについ「頑張れ」と応援してしまいました。何か嫌なことがあった時は、「はやぶさも頑張ったんだから」と自分を勇気づけています。

『君の膵臓をたべたい』『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている』『君は月夜に光り輝く』『僕はまた、君にさよならの数を見る』の4冊を3日くらいで一気に読んだことです。全てとてもいい本で、学ぶこともたくさんあり、読み終えた時にとても充実感を感じたと同時に、この4冊全てテーマが重めなので、心の中がかなり混乱してしまいました。

小説をよく読むので、小説以外の本も読んで自分の世界を広げたいです。