高校ビブリオバトル2017
最後まで目が離せない、「天才」になった一人と一匹の物語
『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス
小尾芙佐:訳
甲斐悠雅くん(静岡県立浜名高校1年)

もしあなたが、まわりから「ばか」「まぬけ」と言われ続け、笑いものにされていたら、どう思いますか。そりゃ悲しいし、いらつくでしょう。そして、「ある手術を受ければ、天才になれる」と言われたとしたら、あなたはその手術を受けますか。
この『アルジャーノンに花束を』は、その手術を受けて天才となった一人の男性の物語です。僕が初めてこの本に出会ったのは、中学2年生の始め頃です。うちの本棚にきれいな表紙の本があったので手に取りました。
裏表紙のあらすじにはこう書いてありました。「32才になっても幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリー・ゴードン。そんな彼に、夢のような話が舞い込んだ。大学のえらい先生が頭をよくしてくれるというのだ。この申し入れに飛びついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に、連日検査を受けることに。やがて手術によりチャーリーは天才に変貌したが…。超知能を手に入れた成年の愛と憎しみ、喜びと孤独を通じて、人間の心の真実に迫り、全世界が涙した現代のバイブル」。
序盤はここに書いてある通りの内容で、難しそうだなと思いました。それが、中盤から終盤でどんどんチャーリーに変化が起き、目を離すことができなくなりました。僕は普段そんなに本は読まないのですが、飽きずに最後まで読むことができました。
この本の大きな特徴を3つ紹介します。
まず1つ目。この本は、チャーリーの経過報告が日記という形で進んでいきますが、手術を受ける前、チャーリーが幼児並みの知能だったときは、ほとんどがひらかなで書かれていて、誤字や脱字もすごく多く見られます。しかし手術を受けた後、どんどん漢字が増えていき、誤字・脱字も全くなくなります。そして後半になるにつれて、語彙力がどんどん高くなり、難しい単語もぽんぽん出てきます。このように、チャーリーの知能の変化を視覚的に感じることができるのです。
そして2つ目の特徴。チャーリーは感情の変化が少し激しい人間ですが、その感情の一つひとつが本当に細かく描写されています。チャーリーが喜んでいるときはこちらも嬉しくなり、悲しんでいるときはこちらも悲しくなるほど、丁寧に感情が描き込まれています。
最後の3つ目は、この本の最大の特徴と言ってもいいかもしれません。物語は過去と未来を行き来します。チャーリーの幼少期の回想が多く見られるのです。例えば、チャーリーは今32才ですが、女性に近づくとパニックを起こしてしまいます。それはなぜだろうと考えていると、場面が変わってチャーリーの幼少期になります。そこには母親がいて、チャーリーにこう言います。「いいかい、お前は女性に近づいてはいけない。もし近づいたら、きついお仕置きが待っているよ」。
ひどいですよね。そのことがチャーリーの心に深く残っていて、今でも女性に近づくとパニックを起こしてしまうのです。このように、過去と未来が奥底でとても深くつながっているのが、この本の最大の特徴です。

この本のタイトルは『チャーリー・ゴードンに花束を』ではなく、『アルジャーノンに花束を』。「あれ、アルジャーノンってなんだっけ?」と思いますよね。先ほど説明したとおり、アルジャーノンはチャーリーと同じ手術を受けた白い実験用のネズミです。この本はほとんどがチャーリーの話で、アルジャーノンなんて最初と最後に少し出てくるくらいです。僕は最初全然わからなかったですが、どうしてこうなるかは、人それぞれの感じ方によって変わるんじゃないかと思いました。例えば、この本の主役がチャーリーではなく、最初に手術を受けたアルジャーノン、そう考えれば題名がアルジャーノンでくるのも合点がいきます。このように、一度読んだだけではわからない奥の深さがとても魅力的です。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2017 静岡県大会の発表より>
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SFとエッセイが好きです。

『東方茨歌仙』『ミッキーマウスの憂鬱』『教団X』を読みたいと思います。