高校ビブリオバトル2017

このちょび髭のおじさんを、笑っていいのか、いけないのか

『帰ってきたヒトラー』ティムール・ヴェルメシュ

森内薫:訳

酒井博紀くん(静岡・日本大学三島高校1年)

『帰ってきたヒトラー』(河出文庫)
『帰ってきたヒトラー』(河出文庫)

約80年前の人が今を見たら、すごく驚くと思います。なぜなら、今は全てが当時よりすごく進歩しているからです。例えばスマホはありません。80年前はというと、例えばアニメ映画の『紅の豚』に出てくるポルコロッソは、決められた場所にわざわざ行って電話していました。とても不便ですよね。持ち運びもできるパソコンはなく、あの頃のコンピュータは、教室くらいの大きさで、性能もやれることと言えば人間ができることと変わらない程度でした。

 

では、80年前の人が現代にやって来たとします。その人は80年前はすごく異端で、しかしその人が何かを言えば、人々は熱狂するような人でした。ちょび髭を生やしていて、髪は七三に分けていて、ドイツ式敬礼を誇らしげにやっていた人です。そう、あのヒトラーです。彼が、あの髭のまま、あの顔であの格好で現代に現れるというのが、この『帰ってきたヒトラー』です。

 

現代のドイツやヨーロッパの国々では、絶対に第二のヒットラーは生まないという教育方針です。その例として、授業中に手を挙げる時は、人差し指を立てて上げます。日本で普通にやるような手の挙げ方は、ナチス式に見えるので、やってはいけないのです。

 

このように、今もドイツではヒトラーは悪だと教わっているわけです。では、そんなところであの格好で街中を歩いていたら、あるいは、芸人としてテレビに出てしゃべったら、それがまた動画でネットに流れたら、ドイツはどうなると思いますか。あの頃のように皆が熱狂するでしょうか。それとも、あいつはバカだ、おかしいと批判するでしょうか。

 

ちなみに僕は、大笑いしました。面白いんですよ。ヒットラーが過激な発言をしても、「あいつは芸人なんだ」と受け取られてしまうのです。でも、本物だからこその発言ができるんですよ。

 

表紙の髭のところには、「笑ってはいけない」と書いてあります。笑っちゃいけないの? でも、本を読んだ僕は笑っています。この作品は映画にもなりましたが、やはり観ている人は笑っているんですね。ヒトラーの言っていることを笑っていいのか、笑っちゃダメなのか。ぜひ自分の価値観で判断していただきたい、ということを僕は伝えたいです。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2017 静岡県大会の発表より>

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