高校ビブリオバトル2017

100人の作家が紡ぐ、100通りの愛の言葉

『I Love Youの訳し方』望月竜馬

野村月子さん(岡山県立岡山朝日高校2年)

『I Love Youの訳し方』(雷鳥社)
『I Love Youの訳し方』(雷鳥社)

夏目漱石が教員をしていた時のこと、教え子が「I Love You.」の和訳を聞くと、漱石は「日本人は、『愛している』などとは言わない。『月がきれいですね』とでも訳しておけ」と言ったそうです。

 

真偽のほどは定かではありませんが、この逸話は、今となっては大変有名になり、少女漫画のタイトルにも使われるほどです。また、私は演劇部に所属しているのですが、昨年、演劇部の大会で、ある高校がいわゆるラブシーンでこれを使っていました。

 

主人公が、心引かれているヒロインに思いを告げるという場面で、二人はいい感じになって見つめ合うのですが、主人公は見つめ合っていた視線をぱっとそらして客席のほうを向きます。そして、窓を開けるしぐさをしながら彼女を振り返って、「月がきれいですね」と言うのです。

 

それを聞いて、正直ちょっとしらけてしまった自分がいました。私はそれが「I Love You」に値する言葉だと気が付きましたが、隣の友達はその逸話を知らなかったので、「月が何やねん」という疑問を抱いたようでした。いうのも、その場面に至るまで、夏目漱石や月に関する布石がまったくなかったので、唐突に「月がきれいですね」と言っただけでは、その言葉の持つ情感が失われているように感じたのです。また、人の言葉を引用して告白する男なんて、告白する時点で願い下げじゃないかと私は思います。

 

ある小説にも同様な場面があります。女の子が、これから戦争に行く恋人に窓辺でそっと寄り添って、一緒に月を見上げながら、「月がきれいですね」と言います。二人は恋人という間柄なのでそれほど不自然ではないかもしれませんが、先の演劇のこともあって、私は「またそれか」と思ってしまいました。

 

他人が使った「月がきれいですね」という特殊な表現をそのまま使うのでは、その言葉の持つありがたみが薄れてしまいます。自分の言葉でないばかりでなく、陳腐な表現に成り下がってしまうと思ったのです。

 

この『I Love Youの訳し方』は、近代の作家や詩人、歌人の言葉から「I Love You」にあたるものを抜き出して集めたものです。もちろん、皆が漱石のような逸話があるわけではなく、作品や実際の恋人に向けた手紙などから引用されています。

 

私がこの本の魅力として一番に伝えたいのは、この本を読むことによって自分の愛の形がだんだん浮き彫りになっていくという点です。

 

例えば寺山修司さんの「思い出さないでほしいのです。思い出されるためには、忘れられなければならないのが、いやなのです」という言葉があります。この言葉に、著者は感傷的だ言いますが、私はガツーンと来る、情熱的で熱い表現だと思いました。このように、著者に反論したくなることもあります。また、それぞれの言葉の横に書いてある、作者の一言に、無粋じゃないかとか、なるほどと思ったりします。

 

これらによって恋愛についての考えが深まり、著者との対話と同時に自分との対話もできるのです。恋愛というものへの理解が深まれば、私自身の言葉で「I Love You」を訳すことができるようになると感じます。ぜひこの本で、自分の「I Love Youの訳し方」を見つけてください。

 

[出版社のサイトへ]

<全国高等学校ビブリオバトル2017 岡山県大会の発表より>