高校ビブリオバトル2017
文章から豊富な山行経験が感じられる、登山愛好家のバイブル
『日本百名山』深田久弥
K.Hくん(岡山県立岡山朝日高校2年)

山岳部という部活動をご存じでしょうか。安全登山を心がけていても、山には常に事故のおそれがあります。そんな危険を冒してもなお、山の魅力に取りつかれている山岳部員の僕が紹介するのが『日本百名山』です。この本を通して、皆さんに日本の山に少しでも興味を持っていただくきっかけになればと思っています。
近年、ますます登山がブームになっていますが、古くから登山愛好家が意識していることの一つに、「百名山」があります。全国の100の名山のことです。さらに最近は、百名山を全て踏破しながら、完全人力で日本列島を縦走するという試みもありました。
では、百名山というのは、誰がどのように定義し、誰がどのよう選んでいるのでしょうか。実は、偉い地質学者が選んだのでも、全国の登山愛好家にアンケートをとって決めたわけでもありません。深田久弥という山好きな物書きが、100の山について書いたエッセーを集めて、本を出版したことだけなのです。
これが出版されたのは1964年です。なぜ半世紀以上にわたってこんなにも支持されているのか。その魅力を一つ挙げるとすれば、深田久弥本人が、あらゆる山の全てに登った上でこれを選んでいることです。100の山を選ぶためには、その数倍は登っていないと選べません。実際本人も、50年の人生の中で、日本の目ぼしい山に全て登った上で、比較検討し選定したと言っています。登山を知っている僕たちからすれば、文章の端々から豊富な山行経験があるというのが感じ取れるのが、大きな魅力です。
百名山の選定の基準は、大きく三つ決めているそうです。立派な山の品格を備えているか。神話に伝わり、神社やほこらに祭られているような歴史のある山であるか。そして、ほかの山にはない独自の個性を持っている山であるかどうか。よく、「あの山よりは、この山のほうがふさわしい」という人もいますが、この本の文章も入っている『山の文学全集』には、漏れた山についても全ての文章が載っています。それらを読んでみても、この百名山見当違いではないと僕は思います。

僕がこの本をなぜお薦めするのか。ここからが核心部ですが、日本は島国ですが、山がちな地形なので山国でもあり、山はどんなころからも絶対に見えていると思います。身近に山があるという日本の環境において、山はどの芸術分野にも取り扱われることからもわかるように、日本人の精神風土の基盤になっているはずです。
この『日本百名山』には、山の成り立ちや歴史、名前の由来なども、作者の実体験とともに、書かれています。もしその地域に行くことがあるなら、そこにある山の知識を得ておくことで、その地域についてより深ることができるでしょう。このように、地域の伝統や神話、成り立ち、さらには日本の精神風土といったものを学ぶのに最もふさわしい1冊として、皆さんにお薦めしたいと思います。
<全国高等学校ビブリオバトル2017 岡山県大会の発表より>
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『思考の整理学』
外山滋比古(ちくま文庫)
普段常に何気なく行う「思う」ことと「考える」ことの2つについて深く考えさせてくれる一冊です。いろいろな「思考の型」に触れる機会を作るこの本はとても自分の思考に刺激を与えてくれました。
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『沈黙の春』
R・カーソン(新潮文庫刊)
「1.明日のための寓話」だけでも皆さんに読んでいただきたいです。半世紀も前にこれほどの環境問題への警鐘があったことにも驚きですが、それ以上に、今これだけの時間を経て、私たちの置かれている状況が当時と比べてどうなのかということを考えると、想像もしたくない現状に気持ちが打ちのめされてしまいます。
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mini interview

神山健治さん監督の『ひるね姫』です。岡山が舞台の作品だったので鑑賞したのですが、物語の背景にある「ものづくりの精神」が理系を志望する自分にとって深く印象に残りました。