高校ビブリオバトル2018

たった54字の短い物語の中に、様々な世界が広がる!

『54字の物語』

氏田雄介(PHP研究所)

横山黎くん(東京都立白鷗高校1年)

僕が読んだ中で一番長かった本は、綾辻行人さんの『暗黒館の殺人』という小説です。上下巻合わせてすごい厚さがありました。

 

長い物語というと読むのに時間がかかってしまったり、途中で頭の中がこんがらがってしまったりすることがあると思うのですが、安心してください。今回僕が紹介する本はその逆です。むしろ短い、短過ぎる。それがこの本、氏田雄介さん作『54字の物語』です。タイトルから想像できるかもしれませんが、この本に収録されている作品、全て54字だけできているのです。

 


一つ目は、こんな物語です。登校時と下校時でかばんの重さは変わらなかった。「きょうは好きな人ができて、初めてのバレンタインデーだったのにな」という物語。皆さんはこの話を聞いた時にどんな場面を想像しましたか。実はこの物語、二通りの場合が考えられます。

 

まず、女の子の視点で読んでみた場合。女の子には好きな男の子がいて、その子にチョコレートを渡すつもりで作ってきたのに、恥ずかしくて結局渡せずじまい。だから、登校時と下校時でかばんの重さは変わらなかった。一方、男の子の視点で読んでみた場合。男の子には好きな女の子がいて、その子からチョコレートをもらえるかなと期待していたのに、結局もらえずじまい。だから、登校時と下校時のかばんの重さは変わらなかったという物語。

 

本来ならば、もっと情報を足して正確な意味を伝えるというのが、小説や評論の義務ではありますが、あえて情報をそぎ落とすことによって、一つの短い物語の中に複数の世界観を重ねることができるんです。

 

もう一つ紹介します。この本のカバー表紙には一つの物語が載っているのですが、実はカバーを取ってみると、隠されていた表紙にまた別の物語が存在するんです。ちょっと読んでみます。「こんなところまで読んでくれてありがとう。うれしいよ。だけど、少し肌寒いからそのカバーはかけておいてくれないか」。僕はこれを見つけた時、本当に感動しました。カバーの大切さをユーモラスに伝えるそのセンス。そして何より54字でまとめる構成力は圧巻です。細部にまで至る作者の遊び心が他にもあるかもしれません。僕は気になってもう一度読み返してしまいました。何度読み直しても楽しめる作品です。

 

この本は、もともとインスタグラムで読めるように作られた、「インスタ小説」と呼ばれているものです。この6×9の原稿用紙の設定もそのために作られたものです。後にはTwitterで自分の作品を投稿する人が続出して、ハッシュタグ54字の文学賞と検索をかければ、たくさんの作品を見ることができます。そう聞いて、54字の物語を作ってみたいと思いませんか。でも物語を作るって難しそうだなと思った方、大丈夫です。実は僕もこの本をきっかけに54字の物語作ってみたのですが、その際に参考にしたのが「54字の物語を作ってみよう」というあとがきです。そこには作り方がわかりやすく載っています。

 

この『54字の物語』の斬新なアイデアに感動した人もたくさんいらっしゃると思います。その人気ぶりを裏付けるように、昨年11月にはシリーズ第2作が出版されました。今度の話はホラー要素満載の超短編集です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『遠まわりする雛』

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『少女は卒業しない』

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『迷路館の殺人』

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横山くんmini interview

好きなジャンルはミステリー、青春小説です。

好きな作家は、米澤穂信、東野圭吾、内田康夫、朝井リョウです。

 

『〇〇〇〇は名探偵』シリーズが好きでした。少年たちがタイムスリップして、歴史上の偉人たちと出会う物語。文字が大きくて絵も入っていました。近いうちに、また読み返してみようかなと思いました。

 

『星に願いを、そして手を』(作:青羽悠)

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『屍人荘の殺人』(作:今村昌弘)

新たなるミステリー、そんなことを読後思いました。設定は控えめにいって奇抜ですが、紛れもなく本格ミステリー。映画も期待したい!!

 

新書を読んでいきたいです。自分の将来に役立ちそうなトピックや、タイトルを見て惹かれたものをどんどん読んでいきたいと思っています。また、たくさんの人の考え方、価値観、世界観に触れて自分のアイデンティティを確立していきたいです。