高校ビブリオバトル2018

ぼんくら貴族が主を救う?! 華麗な平安サスペンスファンタジー

『烏は主を選ばない』

阿部智里(文春文庫)

山岸結衣さん(岐阜県立岐阜高校2年)

私は、和風ファンタジーが大好きで、中でも最もすてきだと思うのが、この『烏は主を選ばない』です。作者は阿部智里さんという女性の方で、なんと大学生の時にこの物語を完成されたそうです。

 

実はこの物語、タイトル通り、登場人物は全員カラスなんです。と言っても、ただのカラスではありません。普段はこのように人の姿をとっているのですが、大ガラスの姿に変身して空を飛ぶことができる、八咫烏(やたがらす)という特別な生き物なんです。

 


これだけ聞くとすごく特殊でファンタジックな世界観ですが、世界の設定としては日本の平安時代に近いです。みんなこのように着物を着ていて、お姫様は十二単を着こなして、朝廷があって、平民と貴族の身分の差があって……というようにカラスたちは人間と全く変わらない文化、社会を築いています。

 

主人公は、この青い着物の男の子・雪哉といいます。雪哉は地方の下級貴族の次男坊で、お兄ちゃんも弟もとても優秀なのに、雪哉だけが剣も学問もからっきし。ぼんくら次男、ぼんくら次男と呼ばれています。そんなぼんくら次男・雪哉は、ひょんなことからこの国の皇太子さま、若宮様のもとに、召し使いになりに行く羽目になるというところから物語が始まります。

 

皇太子さまの召し使いなのでとても光栄なお仕事なのですが、雪哉は嫌がります。「嫌だ。なんでそんなところに行かなきゃいけない。めんどくさい。僕は絶対行かないぞ」と言うのですが、まあ決まってしまったことはしょうがないので、雪哉は単身、渋々故郷を離れ、都に向かいます。

 

着いてみて雪哉はびっくり仰天。なんと若宮様のお屋敷には、自分を含めて仕える人がたったの2人です。2人しかいないんです。ですから、雪哉は若宮様に容赦なく仕事をガンガン押し付けられてしまうわけです。その中には、一見意味のなさそうな、訳のわからない仕事も混じっている。雪哉は泣きそうになりながらも、必死になって頑張るわけです。いろいろな仕事をこなしていきます。なにくそと根性見せるんです。もう、雪哉えらい。雪哉頑張る。

 

そんなふうに、雪哉が必死になって仕事をしている間に、当の本人、若宮様は一体何をしているのでしょうか。遊びに行っています。この若宮様、実に自由奔放な人で、花街に行ってしまったり、仕事をしないで外に出て行ってしまったり、賭け事をしに行ってしまったり。人の話を聞かない、もう本当にむちゃくちゃな人なんですね。現に周りからも、うつけの若宮と呼ばれてばかにされているんです。ですが、そうして「うつけだ」「ばかだ」とさげすまれている人が、物語上で本当にばかだったためしはありません。

 

若宮はとある陰謀に巻き込まれていて、自分の目的を達成するためにうつけを装っているのです。雪哉に仕事を押し付けるのも、屋敷に人を2人しか置かない、いや、置けないのも全て理由と思惑があるんです。若宮は命を狙われているんです。

 

最初はぶーぶーと反抗して、文句を言っていた雪哉も、だんだん若宮に心を開いて、主従関係が成立して、そして信頼関係を築いていくというのも、本当に言葉に表せないかわいらしさがあって、魅力の一つです。

 

そしてこの物語、なんといってもストーリーと世界観の完成度が高いんです。もう続きが全く予想できない上に、「大体こういうのはこういう終わり方だよね」と考えている人は、終盤の怒濤の大どんでん返しで、いい意味で痛い目を見ることになると思います。間違いなく今世紀最高の平安サスペンスファンタジーです。

[amazonへ]

 

<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『NO.6』

あさのあつこ(講談社文庫)

近未来的で壮大な世界観と、「少年2人の冒険劇」で終わらせるにはあまりにも深く重く、愛と絶望と狂気に満ちた物語です。特に、主要な人物の一人である「ネズミ」という少年には誰もが引き込まれるのではないでしょうか。

[amazonへ]


『キノの旅』

時雨沢恵一(電撃文庫)

キノというボーイッシュな少女と人の言葉を喋るモトラド(この世界でのバイク)の旅を描いた短編集です。泣けたり笑えたり考えさせられたり、様々な魅力が詰まったシリーズです。挿絵担当の黒星紅白さんの美麗なイラストや、もはやこのシリーズのお家芸と化している、いろんな意味でとんでもないあとがきにも注目です。

[amazonへ]


『風と共にゆとりぬ』

朝井リョウ(文藝春秋)

朝井リョウさんの日々の生活や学生時代の思い出などを綴ったエッセイなのですが、そのあまりにも赤裸々な内容に爆笑してしまうこと間違いなしです。私は、一番初めに読んだ朝井さんの作品がこれだったので、順番を間違えたなと思いました。自虐と悲壮感と諦念がこれでもかと詰まっていて、思わず朝井さんに御歳暮を贈りたくなります。大会でご本人にお会いした時は、感激しすぎてよく覚えていませんが、「すいませんね、こんな奴が前でね。あの、石とか投げないでくださいね」というようなことを仰っていて、ああこの本の通りの方だなあと思いました。

[amazonへ]


山岸さんmini interview

ファンタジー、ミステリー、ホラー、わりと何でも好きです。東野圭吾さん、阿部智里さん、山本周五郎さん、朝井リョウさんが好きです。

 

『いやいやえん』中川李枝子/作です。児童書とはいえ、やさしい口調やかわいらしいイラストで進む楽しいストーリーの中に、恐ろしさも感じたのを覚えています。

 

『漢字と日本人』高島敏夫/著です。元々文学や日本語、日本文化に興味があったのですが、ますます好きになりました。サラサラと読めるし、目からウロコのことばかりでオススメです。

 

マンガ『史記』横山光輝/著です。やっぱりマンガだとすらすらと読めるしわかりやすいし、楽しいです。着物や宮殿、背景の描きこみに圧倒されます。もはや絵画です。

 

『舞姫』みたいに雅文体で書いた小説が読んでみたいです。現代の様々なシーンを雅文体で書いたらとてもシュールで面白いことになると思うので、どなたかやってくださらないかな~と思っています。「学士の田中出で来たりてののしるも実にらうがはし」(田中先生が出てきて大声を出すのが本当にうるさい)みたいなものが見たいです。