高校ビブリオバトル2018

その想い出、売っていいの? 魔女が営む「想い出質屋」が気づかせてくれたもの

『想い出あずかります』

吉野万理子(新潮文庫)

今村美吹さん(福井県立武生東高校2年)

記憶と想い出の違いって何だと思いますか。例えばお母さんのハンバーグがおいしかった。これは記憶です。でも、仕事で忙しく、めったに料理をしないお母さんが久々に作ってくれて、「パサパサしてたけどなんかおいしかったな」というような「うれしい」とか「楽しい」といった感情が付いてくると、想い出になります。私が今日紹介する本は、その想い出の方。『想い出あずかります』という小説です。

 


本の舞台は想い出質屋。質屋は、品物を預けてお金を借りる。そして、そのお金を返すと、預けた品物が帰ってくるお店のことです。でも、この想い出質屋はそういった普通の質屋とは違っていて、それは大きく三つあります。一つ目は、扱うものは「想い出」。二つ目は、利用できるのは20歳未満の子どもだけ。三つ目は、謎のすてきな女性が営んでいるということです。

 

ここでエピソードを一つ。お客さんの1人に遥斗という小学生がいます。遥斗は主人公の友達です。遥斗はゲームが欲しくて、そのゲームを買うお金欲しさにお母さんとの想い出をどんどん預けていきます。遥斗が預ける想い出というのは、「お母さんから怒られた、もう、うるさいな」、みたいなそういう嫌な想い出ばかりなんです。

 

でもそんな遥斗を変える出来事が起こります。遥斗のお母さんがひき逃げされて、亡くなってしまうんです。それは遥斗とお母さんが大げんかをした直後に起こった事故。もう二度と謝ることもできない永遠の別れ。遥斗はお葬式の時、お香典をわしづかみにして想い出質屋へ駆け込みます。「想い出を返してくれ」と。預けてあった想い出は遥斗にとっては嫌な想い出。それでも、どうしても取り戻したかったのです。

 

遥斗の心に何の変化があったのでしょう。私は、想い出の中のお母さんとのつながりの大切さに、遥斗が気付いたんだと思います。そして主人公、里華も友達との会話の中でこんなふうに言っています。「想い出を預けることをおかしいと思わないの? だって想い出って誰のものでもなくて、自分だけのものじゃん」と。

 

私はこの本を読んで、私だったら想い出は預けたくないと思うようになりました。この本は、里華を中心にいろんな子どもたちのエピソードが描かれています。そういったエピソードは自分と重なって、まるでアルバムをめくるように自分自身を振り返れます。

 

そして、私も改めて自分や家族と向き合いました。実は「家族なんて大っ嫌い」と、お母さんに言ってしまったことがあるんです。まあ認めたくないのですが、やっぱり私は今も反抗期です。でもこの本をきっかけに、そういった過去のこととか、素直になれない今の自分を客観的に見つめ直すことができました。私はこの本を私と同じ10代の反抗期世代の方にももちろんですが、そんな子どもに手を焼いてしまっているような、大人の方にもぜひおすすめしたいです。

 

ところで、この店のオーナーの正体は、「魔女」と称するすてきな女性です。彼女はこの本にも、ある魔法をかけました。それは楽しい想い出、嫌だなと思う想い出、悔しい想い出、どんな想い出も、生きていく力になる。そう信じられる魔法です。ぜひ皆さんもこの本と一緒に想い出のアルバムをめくってみませんか。

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

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今村さんmini interview

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『ハリーポッター』シリーズです。「こんなに分厚い本を読んでいる自分はかっこいい」と周りから思われるのではないかと思って、読み始めました。でも、読んでいるうちにファンタジーの世界にどんどん引き込まれていきました。

 

全国大会で他の出場者が紹介していたミステリー作品をまず読みたいと思います。また、原田マハ先生や朝井リョウ先生の作品も、もっと読んでみたくなりました。