高校ビブリオバトル2018

クモに生まれ変わった同級生、その死の真相とは?

『向日葵の咲かない夏』

道尾秀介(新潮文庫)

島田梨央さん(群馬県立太田東高校1年)

この本は、ミチオという小学4年生の少年の、ある夏の物語です。ミチオの住む町では、犬や猫を殺し、足を折り、口にせっけんを詰めるという謎の事件が発生していました。夏休み前日の終業式の日、ミチオは学校を欠席したクラスメート、S君の家に届け物をしに訪れ、そこでS君が首をつって死んでいるのを見つけてしまいます。ミチオは慌てて学校に戻り、先生にそのことを伝えますが、先生や警察がS君の家に訪れたときには、なぜかS君の死体は消えていました。

 


驚くミチオですが、1週間後、さらに驚くべきことが起こります。死んだS君がクモに生まれ変わってミチオの前に現れたのです。S君は言います。「僕は自殺したんじゃない、殺されたんだ。お願い、僕の体を探してほしい」。そして、S君は、自分を殺した犯人は、なんと担任の先生だというのです。ミチオはS君の無念を晴らすため、3歳の妹のミカを連れて、先生のことを調べ始めます。

 

しかし、物語が進むにつれて、S君がミチオにうそをついていること、S君の発言の矛盾点、S君は生きていた頃、動物を虐待していたということが明らかになり、ミチオは、町で起こっていた犬猫殺しの犯人はS君だったのではないかと疑い始めます。果たしてS君のことを信じてもいいのか、S君の言っていることのどこまでが真実なのか……ミチオの疑問は深まるばかりです。

 

この本は、S君の死の真相を探るミステリー小説ですが、死んだS君がクモに生まれ変わるという「輪廻転生」がキーワードとしてあり、また、ファンタジーの要素もあります。「ミステリーとファンタジーの組み合わせってどうなの?」と思うかもしれませんが、ここでは、この二つがとてもうまく組み合わさっていて、リアリティーがあって、読みやすいです。

 

この本には、普通とは違う少し変わった登場人物がたくさん出てきます。例えば、不思議な力を使いミチオに事件解決のヒントをくれるトコおばあさん。なぜかミチオのことを嫌い、妹のミカを溺愛するミチオたちのお母さん。お母さんは、夕食の時間、ミカには、「ミカちゃん、ジュースがいい? 麦茶がいい?」と優しく聞くのに対し、ミチオがコップを差し出すと、「おまえは水を飲みな」と冷たくあしらいます。

 

そして、妹のミカ。ミカは3歳なのに、なぜかとても大人びていて、ミチオに気を使って話題を変えたり、頭のいい発言をたくさんしています。しかし、いくら大人っぽいといっても、3歳の妹を小4のミチオが連れて先生のことを調べるというのは少しおかしいと思いませんか。

 

このように、この本には、読んでいくと疑問に思ったり違和感を覚えたりする部分がたくさんあります。それらの真相が物語の後半、ミチオのとった、ある恐ろしい行動がきっかけで一気に明らかになります。ミチオの生きている世界が恐ろしすぎて、私は思わずぞっとしてしまいました。この真相はとても不気味で恐く、衝撃的でした。初めて読んだとき、私は、現実と幻想の違いがわからなくなるような、今生きているこの世界は本当に現実なのか疑いたくなりました。それは、この本の恐ろしさが、人間誰もが持っている弱さが原因で、共感できてしまうからなんです。

 

この本は、物語の結末が一切予想できません。ラストに待っている大どんでん返しは、他の小説とは桁違いに驚かされます。この小説のトリック、きっと誰もがだまされると思います。

 

さらに、ラストに至るまでの伏線がすごいのです。至るところに伏線が張り巡らされていますが、私は、最初に読んだとき、それに気付くことが一切できませんでした。もし一つの謎に気付けたとしても、謎の上に謎が重なり複雑に絡まり合っているので、1回で全ての真実に気付くのは難しいと思います。そして、この伏線のおかげで、何度読み返しても新しい発見があり、何回でも読みたくなるのです。

 

この物語は、決してすっきりする終わりではありません。心にずっと恐怖や、もやもやが残ります。しかし、どこか惹かれる不思議な世界です。皆さんもミチオの過ごした、どこかおかしな夏休みをどうぞごらんください。そして、最後、S君の死の真相に、驚愕してください。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『マリアビートル』

伊坂幸太郎(角川文庫)

スピード感や臨場感があり、結末が予想できないので、読んでいて楽しかったです。個性豊かな登場人物の掛け合いも面白かったです。

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『死神の精度』

伊坂幸太郎(文春文庫)

人間とは価値観の違う、真面目だけど少しズレている主人公の死神がおもしろかったです。「死」についても考えさせられました。

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『告白』

湊かなえ(双葉文庫)

一人一人の告白によって徐々に事件の真相が明らかになるところや、少年犯罪や復讐について考えさせられるところがとてもいいと思いました。衝撃的な展開ばかりで、すごく先が気になりました。

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島田さんmini interview

好きな本のジャンルはミステリーで、好きな作家は伊坂幸太郎さん、道尾秀介さんです。

 

小学校のとき、『テレパシー少女「蘭」事件ノート』シリーズが好きでした。特に第二巻『闇からのささやき』が好きでした。友情、超能力、冒険があって面白かったです。この本を読んで、小説家を目指そうと思いました。私もこの本のように人々に笑いや感動、夢を届けたいと思ったからです。

 

『新約Marchen』という漫画です。理由は各話ごとの衝撃の真相や、人間の心の色々な面を丁寧に描いているところ、童話と復讐を絡めたファンタジーな世界観が好きだからです。

 

純文学が読みたいです。