高校ビブリオバトル2018

「これめっちゃよくね」……こんな「枕草子」なら、古文嫌いでもスラスラ読める!

『桃尻語訳 枕草子』

橋本治(河出文庫)

竹井若奈さん(宮崎県宮崎北高校2年)

古文と聞いて、私は、平安時代の白塗りでおちょぼ口な人たちが、意味わからんことをぐちゃぐちゃ喋っている様子を想像します。授業でも古文を読む機会が多いのですが、そこで出会う文が全部難しいのです。何から何まで意味がわからない。だから夜な夜な家で辞書を引いて、「せ・し・す・する・すれ・せよ」と呪文を唱え、なんとか訳しています。ですから古文というのは難しくて遠い存在というイメージがこびりついていました。私は文系アレルギーの理系なのです。

 


でも、そんな私を180度変えてくれたのが、橋本治先生の『桃尻語訳 枕草子』です。この本は発売当時、とてももてはやされました。常識を覆したような偉業だと。

 

評価の理由は、訳し方にあります。なんとこの本は枕草子を全て「ギャル語」で訳してあるのです。そこらへんの女子高生が、ぺちゃくちゃと喋っているような感じで「これめっちゃよくね」「それは好き」「それはダサい」のような、軽い文体で訳されているんです。これは気になりますよね。

 

「中納言参りたまひて」というお話はご存知でしょうか。中宮定子のもとに隆家という男が訪れます。隆家は自分の扇の骨を自慢するのです。それに対して清少納言は一言、「さては扇のにはあらで、海月(くらげ)のななり」とツッコむのです。すると周りはドッとウケるんですね。

 

私はこれをはじめて読んだとき、なぜ周りが笑っているのかわからなかったんですね。なぜお前らは笑っているんだ、「ななり」ってなんや、と。

 

これが桃尻語訳では、「ある日、中宮定子のもとに隆家が訪れます。そこで隆家は『隆家ったらさー、サイコーの扇持ってんですよ!』と申し上げられるの。そしたらみんなが『えーどんなふうになってんの?』とお尋ねあそばすからさ、隆家さんは『結局サイコーなの。みんなはぜんっぜん見たことがない骨の具合だっていうんだよ』と大声でおっしゃるもんだから、私が『それじゃ扇のじゃなくて、クラゲのなんじゃないの!』って申し上げたらばさ、隆家さんは『これは隆家のセリフでしょ!』ってお笑いになってんの!」

 

枕草子ってこんなに軽いの?明るいの? と思ったかもしれません。実は、著者の橋本治先生は、「当時の清少納言は、現代の学校の授業で訳されているようには話していなかったんじゃないか」と言っています。単純に現代語訳してしまうと、彼女独特の性格や息遣いが伝わらないんじゃないか、そう思ってこの作品を作られたそうです。

 

私はそれを知って、なるほどと思いました。現代でも言葉を話す口調や人柄によって、言葉の意味や雰囲気は全く異なります。それは古文にも言えることだと気づいたのです。

 

それから私は、じゃあ、あの作者はどんな性格なんだろうとか、あの作品のオチってなんだったんだろうなどと、いろいろ気になりはじめて、今ではたくさんの本を読むようになりました。あんなに大嫌いだった古文が、今では一番大好きな教科になっています。そのきっかけが『桃尻語訳 枕草子』です。さて「春はあけぼの」がどのように訳されているのか、ぜひお確かめください。

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

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竹井さんmini interview

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