高校ビブリオバトル2018
日本文学への愛と尊敬が溢れる、文学パロディの最高傑作!
『もしも文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』
神田桂一、菊池良(宝島SUGOI文庫)
佐藤一貴くん(福島県立磐城高校2年)
本書は、いろいろな作家さんたちがカップ焼きそばの作り方を書いたらどうなるの?という本です。実際には現代の作家さんがそれぞれの文体を、完全にコピーして書いています。例えば、太宰治さん、村上春樹さん、星野源さん、それから紀貫之、シェイクスピア、珍しいところではヒカキンも登場しています。
例えば、村上春樹さん。村上春樹さんの文章には特徴があります。ちょっとけだるそうだったり、登場人物が冷めていたり、おしゃれなたとえ話を使ったりします。そんな村上春樹さんはどんなふうに焼きそばを作るのでしょう。
「きみがカップ焼きそばを作ろうとしている事実について、僕は何も興味も持っていないし、何かを言う権利もない。」
それっぽいですね。
「エレベーターの階数表示を眺めるようにただ見ているだけだ。勝手に液体ソースとかやくを取り出せばいいし、お湯を入れて5分待てばいい。その間、きみが何をしようと自由。少なくとも何もしない時間がそこに存在している。好むと好まざるとにかかわらず。ただ一つだけ確実に言えることがある。完璧な湯切りは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
うまいことまとめましたね。これは普通にやっていれば、ただ湯切りに失敗しただけなんですよ。そこを「完璧な絶望が存在しないようにね」とまとめ上げてしまうところが、さすが村上春樹といったところです。このように、いろいろな作家さんの書き方で書かれているわけです。
例えば、太宰治は「恥の多い人生を送ってきました」と書き始め、芥川龍之介は「からの容器の行方は誰も知らない」と、ごみ捨てを放棄します。
きわめつきは、俵万智さんです。「『このかやくがいいね』と君が言ったから七月六日はカップ焼きそば記念日」

くだらない、実にくだらないんです、この本は。でも、ありとあらゆる文体をここまで完璧にコピーするのは、簡単なことに思えて、相当難しいことです。この本には著者が二人いますが、この二人の文学への愛と尊敬と、さらに、もう少しの愛がないとこれはできないことなんです。簡単なことに思うかもしれませんが、実はこれはすごいこと。ありとあらゆる文体を、焼きそばというものにからめてやっているわけです。これは日本文学史上の事件です。
ありとあらゆるジャンルを網羅した飯テロパロディの最高峰。ぜひぜひお湯を入れて待っている間にでも、読んでいただければと思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『指揮官たちの特攻』
城山三郎(新潮文庫)
太平洋戦争中の特攻に自ら身を投じた航空隊長たち。一見すると狂気めいた判断の裏にある考え抜いた末の固い決断。「過去完了」と出撃前に書き残した者の人生。近現代史を考える上で外せない本だと思っています。
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佐藤くんmini interview

村上春樹さんです。

ヴェルヌ『十五少年漂流記』が気に入っていました。文だけでここまでできるのかと夢中になった思い出があります。