高校ビブリオバトル2018
夢は、数学で世界を救うこと!
『お任せ!数学屋さん』
向井湘吾(ポプラ文庫)
大久保洸佑くん(神奈川県立横須賀高校2年)
「三度の飯より数学が好きです!」という方もいれば、一方で、「数学なんて聞いただけで蕁麻疹が出る……」なんて方もいらっしゃるでしょう。それに、別に、方程式が解けなくたって、今日の晩御飯の買い物に支障はないし、二次関数のグラフがわかったところで、新しい友達ができるわけでもない。「足し引きかけ割りならともかく、空間図形なんていつ使うんだよ」と思った方も、一人二人ではないのではないでしょうか。
この物語の主人公はそんな数学が大嫌いな女の子、はるかです。そんなはるかのクラスに、時期外れの転校生がやってきます。彼の名前は、陣内宙。彼が転校初日に放った一言は、「夢は、数学で世界を救うことです」。クラスは当然大爆笑。担任でさえも苦笑い。でも言った当人は、そ知らぬ顔。
そんな宙が、数日後あるお店を教室で開きます。そのお店こそ、「数学屋」。数学屋とは何かというと、数学を使って日常にあるようなお悩みを解決していくという、お悩み相談所のことです。
この数学屋は、例えば、金欠に苦しむ女子中学生や、「不登校の幼馴染を助けてほしい」という願い、最後の方には恋の悩みまでも、数学の力を使って解決していきます。
後にはるかも、数学屋さんの仲間に加わり問題を解決していくわけですが、ここまで聞いていて、「金欠とか貯金ならまだわかるけど、恋とか不登校とか、数字らしきものが全く出てこないやつ、どうやって解決するんだよ」と、思った方もいるのではないでしょうか。最初はそう思ってこの本を手に取っても、この本を読み終わった後にはきっと、「数学って今までちょっと難しそうで敬遠していたけど、案外こういう数学なら学ぶ意味があるかもな」と、思うはずです。
私の好きなシーンを一つ紹介します。このシーンは、主人公のはるかの親友マキが、数学屋さんに相談する場面です。解決のために矢継ぎ早に質問する宙を、はるかがたしなめます。そのあとのシーンを、ちょっと読ませていただきます。
「『少し不躾だったね。申し訳ない。』宙は真顔で、ぺこりと頭を下げた。
『でもわかってほしい。僕が中途半端に慰めたところで、まきさんは救われない。僕らが代わりに悲しんだって、マキさんの重荷が軽くなるわけでもない。僕には心理学的なカウンセリングの能力はないんだ。僕には数学しかない。でも、数学ならある。起こってしまったことは変えられない。それなら、今考えるべきことは自ずと絞られる。全力で協力するよ。僕が必ず、君を助けてみせる。』」

自分に持っているものと持っていないもの。その両方を正しく正確に知っているからこそ、言えるセリフだと思います。このような人間味のある深いシーンや、心にくるシーン、あとは中学生らしい可愛い姿も描かれているのが、この本の特徴だと思います。
テストや成績のためではない、生きた「本物の数学」を、感じられると思います。全ての数学が好きな人と、全てのそうでない人に、この本を勧めます。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『かにみそ』
倉狩聡(角川ホラー文庫)
第20回日本ホラー小説大賞の優秀賞の作品であり、「泣けるホラー」という新しいジャンルを作り出した作品。主人公の男とカニの会話や彼らの考え、クライマックスの心温まるシーンにも注目です。
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『浜村渚の計算ノート』
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『ぼくとおじいちゃんと魔法の塔』(香月日輪)が気に入っていました。何をしても普通で内気な少年龍神(たつみ)が古びた塔で出会ったのは、幽霊になったおじいちゃん?! 人生とは何か、生き方について考えられる本です。内気だった当時の私は、この本に出会えたことで自分を肯定できるようになり、世界が変わったよう見えたのを覚えています。

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友情や親子の愛情がテーマの本や、山田悠介、有川浩作品。または、短編小説が読みたいです。