高校ビブリオバトル2018

自称「世界最速の探偵」が犯罪が起こる前に解決!

『探偵が早すぎる』

井上真偽(講談社文庫)

佐久間諒くん(関西創価高校1年)

ミステリーというものは、「好き」と「嫌い」がばっさり分かれてしまうジャンルです。だから、「全ての人が楽しめるミステリー小説」というのは、あまり存在してきませんでした。しかし、この本は、ミステリー好きの方もそうでない方も、全ての人を楽しませる、そんな究極のミステリー小説です。

 

タイトルは、ストーリーの内容、ほとんどそのまま。そう、早すぎるが故に、事件を未然に防いでしまって、そもそも犯行自体を起こさせない、新感覚の超スピードミステリー小説なのです。

 


主人公は女子高生の一華(いちか)。彼女は父親の死によって、莫大な遺産を手に入れます。その額なんと五兆円。その遺産を目当てに、彼女の一族が次々と刺客を送り届け、彼女を亡き者にしようとする。このままでは彼女が殺されてしまう、そう懸念した家政婦の橋田は、ある男に彼女の探偵兼護衛を依頼するんです。その男こそ、探偵・千曲川光。彼は自称「世界最速の探偵」で、相手が犯行を起こす前にそれを未然に暴いて、そして防いでしまう、そもそも誰も殺させない探偵なんです。

 

実はこれはすごく重要なポイントです。ミステリーがあまり得意ではないという方、ご安心ください。人が死ぬ描写は一切出てきません。だからそういうのが苦手だという方にとっても、十分楽んでいただけます。

 

でもそうなると、今度は、ミステリー好きの方にとっては、物足りないんじゃないですか。人が死なないミステリーって、臨場感に欠けた面白みのない話に聞こえますよね。人が死ぬというのは、ミステリーにおいてリアル感や、はたまた読者に対するドキドキ感を与えてくれるものです。つまり、「人が死ぬ」ということがミステリーにおいて重要なツールとなっているわけで、これがなくなってしまうと、やはりミステリーとて痛い。

 

しかし、ミステリー好きの方、ご安心ください。この本は、そんじょそこらのミステリーとは臨場感の格が違います。一族が次々と刺客を送りつけ、彼女を亡き者にしようとする。しかし、彼女の遺産を手に入れるためには、殺人だとバレてはならない。そのため、トリックは全て、どこにも隙がないような完全犯罪ばかり。それを千曲川はいったいどうやって未然に防ぐのか。この一族と千曲川の両者の攻防戦は、必ず目の肥えたミステリーファンにもご満足いただけます。

 

特におすすめしたいのは、「懐石料理毒殺殺人事件」。手口はいたってシンプルです。不特定多数が集まっている食事会に一華を招き入れ、その彼女の料理にのみ毒を盛って殺害する。しかしシンプルが故に非常に難しい。まず、いろいろな人が集まっている中で、彼女の料理にのみ毒を盛って殺害する方法自体が困難を極めます。

 

そして、完全犯罪でなければならない。つまり、彼女の料理に、毒を盛ったという形跡すら残してはならないのです。あくまで事故であって、殺人ではなかったという証拠を残さないといけない。そんなトリックが本当にあるのかと。これがあるんです。

 

そのトリックのタネ、真相、ご説明させていただきたかったのですが、申し訳ございません。お時間となってしまいました。

続きの真相は、ぜひ本書でお確かめください。トリックはいずれも、必ずや誰もが度肝を抜かれる奇想天外トリックであることは、私が責任持って保証いたします。

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

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佐久間くんmini interview

好きなジャンルはミステリーです。

好きな作家は青柳 碧人、知念実希人。

 

 

マジックツリーハウスシリーズをよく読んでいました。ジャックとアニーが魔法のツリーハウスでいろいろな時代を冒険する話です。

 

「このミステリーがすごい2018」1位の今村昌弘さん作『屍人荘の殺人』がとても面白かったです。今までになかった要素をミステリーにつけこむだけでなく、あえて王道を貫き通すこの1冊に大変感銘を受けました。

 

特に自分が好きなのはミステリーなのですが、恥ずかしいことに、江戸川乱歩やシャーロック・ホームズ、アガサ・クリスティーなどの古典的なミステリーについてまだまだ読んだことが少なく、今後はそのような本も読みたいと思っています。そのため、今はアガサ・クリスティー作『そして誰もいなくなった』や『ABC殺人事件』などを読んでいます。また、はやみねかおる先生の児童向けミステリーや綾辻行人先生の本格派ミステリーも読んでみたいと思っています。