高校ビブリオバトル2018

「死」と向き合う日常と、その中に見出すささやかな希望

『骨を彩る』

彩瀬まる(幻冬舎)

立田凜さん(兵庫県立加古川北高校1年)

『骨を彩る』では、死という重々しいテーマを、彩瀬まるさん独特の言葉選びと比喩表現で描き上げています。

 

この本は短編集で、主人公はみんな何かしらの悩みを抱え、同時に人の死を知っている5人の人々です。どのお話に出てくる人も、自分に関係のある人の死と向き合い、それぞれの苦悩を重ねます。ですが最後には自分なりの答えを出し、小さな希望を持って前へ進み始めます。自分の出した答えが間違っていてもいい、きっと大丈夫。そう投げかけられるような、とてもあたたかい余韻を残してくれる小説です。

 


私も、今までは自分の選択に自信を持つことができなかったけれど、この本が背中を押してくれているようで、とても心強く思えました。

 

私がこの本を好きな理由は3つあります。

 

一つめは、彩瀬まるさんの独特な言葉選びと比喩表現がとても面白いところです。例えば現実的な夢から覚めることを「開いていたはずの瞼がもう一枚開く」と書いたり、綺麗な千代紙の色のことを「目を焼く色彩の洪水」と書いたりしています。自分では思いつかないような表現が作品中にたくさん散らばっていて、読んでいてとても面白いです。私がこの本を手に取ったきっかけも『骨を彩る』という、この作品のテーマともいえる死を表現したような不思議な題名に惹かれたからでした。

 

そして、この小説を読んでから読書の楽しみが増えました。今までは作者が与えてくれたストーリーだけを楽しむというイメージだったのですが、表現や言い回しにまで注目するようになったのです。また、能動的に物語に入りこみ、本当に作者の言いたいことを探っていくようになりました。

 

二つめは、短編集にもかかわらず、全体でひとつの大きな物語が進んでいくような、つながりがあることです。

 

一編目は妻を失くした男性の話。二編目はその男性が特別な思いを寄せる女性の話。三編目はその女性の女友達で、子育ての中で母としてのあり方を迷っています。このようにそれぞれに小さな接点がありつつ、つながっていきます。この小さなつながりを見つけていく感じが、パズルを解いているみたいでとても面白いです。

 

私が一番好きなつながりは、一編目と五編目の大きなつながりです。五編目の主人公は、一編目の男性の娘なのです。ただ血のつながりがあるだけでなく、この2人が小説全体をつくりあげているとも言えるほど、最後までつながりがあって、とても驚かされました。

 

さらに、表紙のイラストのイチョウが舞っている様子も実は重要な意味があって、読み終えたあとにこの作品がより好きになりました。

 

三つめは、この作品のテーマです。

 

この作品は人の死に注目して悩みを重ねる中で、生きていることに希望を見出すものです。どこにでもある日常を切り取るような、静かに流れていく小説ではありますが、だからこそより身近に感じることができます。人の暗い部分や醜い部分も表していてとても人間味があります。また、この作品は10代から40代と幅広い年齢の主人公を取り上げています。私たち高校生という、大人とも子どもとも言えない中途半端な年齢でも共感することができ、将来について考えることができる、とても深い内容の作品になっています。そして、歳を重ねるごとに読み方が変わるので、長く楽しむこともでき、たくさんの人に楽しんでいただける作品だと思います。

 

死というテーマはノンフィクション、ファンタジー、サスペンスなど様々なジャンルで取り上げられるものだと思います。でも、こんなに現実的に死を身近に感じられる作品は初めてで、読んでいてとてもびっくりしました。読み応えのある一冊です。

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『夢をかなえるゾウ』

水野敬也(飛鳥新社)

大まかに説明すると「主人公が夢をかなえていく話」ですが、この本はただそれだけでは終わらない強い魅力があります。個性の強い、関西弁を使う神様が出てきて、毎日、なんでもないすぐ達成できそうな課題を出します。それを自分も主人公のように取り組んでいけることが、本とともに生きているようでとても面白いです。また、内容もとてもコミカルで、本が苦手な人でもスッと入っていける、そこも大きな魅力です。

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『君の膵臓を食べたい』

住野よる(双葉社)

この本はとても有名で、映画にもなっていますが、是非小説でも読んでもらいたいです。この本では、とても珍しいですが、最後の最後まで主人公の名前が出てきません。そこが本当に面白くて、いろいろな考察ができ、何度読んでも違った見え方ができます。他にも、たくさん考えさせられるポイントがあり、他の人と一緒に読んで語り合えることも、小説で読む魅力かと思います。

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『それでも僕は夢を見る』

水野敬也、鉄拳(双葉社)

この本は、夢をあきらめた人のお話です。とてもシンプルで、すっと読めてしまうようなお話ですが、読者によって各々感じ方の違うお話です。また、鉄拳さんのイラストが載っており、ひとつのアニメーションのような躍動感がある中に、文章だからこそ伝えられるメッセージも込められていて、とても心を動かされる本です。

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立田さんmini interview

文芸書や歴史小説を好んでよく読みます。好きな作家さんは、彩瀬まるさん、住野よるさん、水野敬也さんです。

 

エッセイ本や、文豪が書いた本が読んでみたいです。