高校ビブリオバトル2018

定番のショートショートとはひと味違う星新一作品

『声の網』

星新一(角川文庫)

木村駿介くん(佐野日本大学高校[栃木]2年)

人の好みは十人十色、好いも悪いもなかりけり、とはよく申しますが、私は本に恋をしております。いや、本にも、と言ったほうがいいですね。音楽が好きで、レコードを集めたり、映画は「男はつらいよ」から「スター・ウォーズ」まで、古今東西なんでも観ます。それから、カメラにギター、ビートルズ、太宰治にバルタン星人まで、多方面にわたり好きなものがたくさんある僕なんですが、ひとつどうしても好きになれないものがあります。なんだと思いますか? 皆さん持ってます……電話です。

  


こんな経験があります。あるとき、僕のスマホに不在着信がありました。知らない番号です。どこの番号だろうと思って調べたら、これが日本じゃない。チャドという、アフリカのど真ん中の国で、調べると独裁国家だと書いてある。気味が悪くてすぐ着信拒否にしちゃいました。

 

これだから電話は嫌いなんです。どこからかかってくるかわからない。そんな電話恐怖症の私が、戦々恐々としながら読んだのが、星新一さんの『声の網』という作品です。

 

物語の舞台は電話網が極度に発達したある未来の世界。一家に一台ある電話一つで、友人とのおしゃべり、会社の会議、お金の管理、人生相談から健康診断まで何でもできてしまう……まさに、今の時代のスマートフォンです。「網」というくらいですから、ネットみたいなものなのかもしれません。ですが、これが出版されたのは1970年という、今から50年近くも昔のことなのです。 私の母と同い年。おっとこれは失言!

 

1970年といえば、黒電話しかない、なかにはそれさえない家もあったというから、そんな時代にあっての作者の先見の明、星新一先生恐るべしです。その中に収められた話を一つ紹介したいと思います。

 

ある会社のある部署に、とんでもない嫌われ者がいました。とにかく性格が悪いんです。あるとき、そいつは、その会社が扱っている製品の、テスト中の事故で死んでしまいます。

 

それから4年くらいたったある日、ある社員の自宅に電話がかかってきました。「はい」と出ると、「おれだよ、おれ」と言う。

 

「だれだよ?」

「あの事故で死んだ○○だよ」

「そんなわけないだろう。死んだんだから」

「いやおれだ。そもそもおれが死んだのは、お前があの製品の点検をミスったせいだ。お前が悪いんだ」

 

……あ~、そういえば、あの点検のときボルトを1本締め忘れたような気がしてきたぞ……というところで電話は切れます。次の日に会社に行くとみんな青ざめた顔をしています。理由を聞くと「いや、おれのところに変な電話があってね」と、「あっ、おれもだよ」。どうやら全員のところに同じ電話があったらしいのです。あの事故は、各々のミスが重なって起こったのではないかと思っていると、今度は会社の電話が鳴ります。仕方なく出ると、電話の主はあいつです。「おお、お前ら。お前らに二つ要求がある、一つめはこの電話のことは誰にも言うな。よけいな詮索もするんじゃない。二つめは……。」これはネタバレになるので言えないんですが、とにかくおっかないんです。気持ち悪い。それを読んで確かめてみてください。

 

こんな感じのお話が、全部で12本収められていて、1本目が1月、2本目が2月、3本目が3月……となっていて、1年間の物語を読み終えると、謎が解けるという仕組みになっています。毎回登場人物は変わりますが、謎の電話がかかってきて事件が起こるというのは共通しています。

 

せっかく12本入っているのですから、1ヶ月に1本ずつ1年かけて読んでいくという贅沢な楽しみ方もおすすめしたいのですが、まぁ無理でしょうね。あまりにも面白くてストーリーが気になって、1日で読んでしまう方が大半じゃないかなと思います。僕の祖父も一晩で読んで翌朝血走った目で「面白かったよ」なんて言って返してくれました。あれはうれしかったですね。

 

そんな私の祖父も餌食になった『声の綱』。ここまで紹介してきたんですが、本当はこの本はビブリオで紹介したくなかったんです。自分だけの宝物にしておきたかった。でもやっぱり読んで欲しい。こんな本をほかに知らないのです。SFでもホラーでもない、なんともいえないゾーッとする怖さ。星新一といえばSFのショートショートで有名ですが、この本は……そうではないんです……。言葉では言えない。だからこそ、ぜひ読んでみてゾ~っとしてほしい。皆さんが電話嫌いにならなければ読んでみてください。

 [amazonへ]

 

<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『ライ麦畑でつかまえて』

J.D.サリンジャー 野崎孝:訳(白水Uブックス)

読んで感動し、ポケットに入れて持ち歩いていた時期がありました。自分のことは自分で助けるしかないと考えさせられました。

[amazonへ]


『パンドラの匣』

太宰治(新潮文庫)

これに入っている「正義と微笑」が好きです。

[amazonへ]


『寺山修司詩集』

寺山修司(ハルキ文庫)

祖父にすすめられて読みました。

[amazonへ]


木村くんmini interview

江戸川乱歩、星新一、サリンジャー、太宰治、寺山修司、ビートルズ、忌野清志郎、レコード。

 

『わすれないで』が気に入っていました。第五福竜丸の話です。

 

『寺山修司名言集』(本)、『ナイアガラ・カレンダー』(音楽)、『シェイプ・オブ・ウォーター』(映画)、『レザヴォア・ドックス』(映画)

 

詩をたくさん読みたいです。