高校ビブリオバトル2018

自分らしく生きるとは? 古典文学の中にみる普遍的な人間の葛藤

『とりかえばや物語』

田辺聖子(文春文庫)

野村珠緒さん(愛知県立旭丘高校2年)

時は平安時代。高貴な家にそれはそれは美しい兄妹が産まれました。私が今回紹介する『とりかえばや物語』は、12世紀後半に成立した古典文学『とりかへばや物語』の現代語訳版であり、平安時代の貴族社会を舞台に巻き起こる奇想天外なラブコメディです。

 

左大臣家に春風という姫と秋月という若君が産まれました。春風は女の子だけれど家の外で男の子たちと遊ぶのが好きでとても活発な性格、兄の秋月は男の子だけれど女の子たちと家の中で遊ぶのが好きですごい人見知り。見かねた父親の左大臣は、この二人の性別と性格を取り替えられたら……と考えます。そして、この兄妹はお互いの性別を取り替えて育てられ、やがて春風は男として、秋風は女として、宮中に出仕することになります。

 


さて、容姿が美しいだけでなく仕事もバリバリできる春風は、宮中でたちまち出世していきます。性別を偽り男としての人生を謳歌している真っ最中、春風は右大臣の娘、冬日姫と結婚することになります。しかし、春風はもともと女性です。結婚したというのになかなか手を出してこない夫に対し、冬日姫は不信感を抱きます。

 

ここに、春風の親友で同僚の夏雲という男性が関わってきます。彼は大変なプレイボーイで、きれいだと思った女性には誰にでも声をかけるような軽い性格。その夏雲は春風の妻となった冬日に思いを寄せ、とうとう冬日の寝所に忍びこんで、冬日は夏雲の子どもを妊娠してしまいます。

 

冬日の妊娠が発覚し、周囲は春風と冬日の間に子どもができたと思って大喜びします。しかし、春風はもちろん自分の子どもでないことを知っています。いったい誰の子どもなんだろう……そう思っていたある日、春風は、冬日の寝所で夏雲が落としていった扇に気が付きます。春風は親友と妻、ふたりに裏切られたショックでひどく落ち込みます。

 

そんなある日のこと、春風が女性であるということが夏雲にバレてしまいます。実は夏雲、春風が女だったら結婚したいとずっと思っていたのです。夏雲は春風に強引に迫り、春風は夏雲の子を妊娠してしまいます。

 

一方その頃、兄の秋月は、女として出仕している先の女主、東宮に恋をしていました。初めての感情にとまどいつつ、秋月は東宮と関係を持ち、そして東宮は秋月の子どもを妊娠してしまいます。

 

さて、この物語の面白いところは、平安時代後期に成立した古典文学にもかかわらず、主人公春風の抱える悩みが、現代の働く女性の悩みにも通じるように感じるところです。

 

このあと、夏雲の元にかくまわれて春風は出産するのですが、産まれた子どもを育て、この浮気症の夏雲の妻として男を待つ女の生涯を送っていくのか、それとも自分らしい今までの人生を取り戻すために、悲しくても自分の子どもを置いて夏雲の元を逃げるのか、この二択で春風は悩むことになります。その姿は結婚や妊娠、出産を機に仕事を続けたくても続けられずに悩む現代の働く女性の姿にも少しだけ似ているように思います。

 

私は元々古典がとても苦手で、授業以外で現代語訳でもきちんと一本読み切るということをしたことがありませんでした。この話との出会いは塾の模試の問題用紙で、あらすじを読んで、なにこれ? 本当に古典なの?と思って読んでみたんです。『とりかえばや物語』は古典が苦手な人でも楽しく読める古典です。私は原書も読みましたが、話が面白いのでけっこう読み進めることができます。古典があまり得意でないという方も、ぜひ手にとっていただけたらと思います。

 

自分らしく生きたいという気持ちは今も昔も変わりません。春風、秋月、夏雲、冬日、数奇な運命をたどったこの4人はそれぞれの人生にどう決着を付けるのか。衝撃のラストをみなさんも見届けてください。

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

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中学生のときから「やろう」と思いつつまだできていない「有川作品全読破」に今年こそ挑戦したいです。また『とりかえばや物語』は自分から古典に触れるきっかっけになったので、一度「源氏物語」をちゃんと読んでみたいなと思っています。