高校ビブリオバトル2018
心がじんわり温かくなる優しい家族の物語
『卵の緒』
瀬尾まいこ(新潮文庫)
深田菜央香さん(徳島県立脇町高校1年)
軽やかな日常が描かれている、この本の主人公・育生。自分は捨て子なのではないかと考えている、小学5年生の男の子です。
この本に出てくる登場人物は、みんな素敵で、読んでいると胸がほわりと温かくなります。その中で特に私が好きなのは育生のお母さんです。お母さんは優しくてユーモアにあふれていて、そして何より育生のことを誰よりも愛しています。
そのことがよくわかるのは、この本の題名の由来となるシーンです。
ある日、常々自分が捨て子ではないかと考えていた育生は、自分が捨て子ではないという証に、へその緒を見せてくれと直談判します。一瞬たじろいだお母さんが見せたのは、なんと卵の殻。育生はやっぱり自分は捨て子なのだと思いますが、お母さんは育生を抱きしめて「誰よりも育生が好き。今までもこれからもずっと」と言ってくれます。このことによって育生は、自分が捨て子かどうかなんて、どうでもよくなるのです。
私はこの本を読んで、家で家族というものについて話をしました。母は「家族にはいろいろな形があっていいと思う。家族の形にも絆にも縛られることはない。ただあなたには自由で幸せでいてほしい」と言ってくれました。
この言葉を聞いたとき、私の胸の奥にあった「いい子でいなければならない」というしこりがとれたような気がしました。それと同時に、家族に限らず、すべての人を大切にすることができたなら、孤独や寂しさは、心の中からなくなっていくのではないか、誰かを大切にすることは、自分を大切にすることと同じなのではないかと考えるようになりました。
もう一つ、素敵なシーンがありました。「おいしいごはんを食べているとき、そのごはんを誰かに食べさせたい…そう思った人が好きな人なんだよ」というお母さんの言葉です。だからお母さんはいつも、食事中に恋人の朝ちゃんを呼ぶのです。
そして恋人の朝ちゃんは育生のお父さんとなり、育生に弟か妹ができることになります。朝ちゃんと育生は、「赤ちゃんは優しくそっと抱っこしなくてはいけない」と、抱っこの練習を始めます。赤ちゃんの代わりは人形ではなく、なんと卵。生卵に顔を描いて優しく優しく……産まれてくる赤ちゃんのためにふたりは真剣に練習をするのです。

この本を読んでいると、家族ってなんだろうと考えたくなってきます。私はこれからもこの課題をずっと温かな気持ちで考え続けるための種を、心に撒いてもらったような気がします。
育生がこだわったへその緒ですが、それは母と子をつなぐものに違いありません。しかし家族の証とはいったいなんなのかと、この本の題名に託された作者の思いが伝わってきました。
実は育生、捨て子ではありません。しかし、お母さんと血がつながっているわけでもありません。育生とお母さんは不思議な糸でつながれていました。その不思議な糸をみなさんの目で確かめてみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『見えない誰かと』
瀬尾まいこ(祥伝社文庫)
中学校の先生だった瀬尾まいこさんが書かれたエッセイです。学校の温かさ、先生の温かさを感じることのできる本です。ちょっとほっとしたいなというときに、『ありがとう、さようなら』という瀬尾まいこさんの他のエッセイと一緒に読んでみてください。
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『僕らのごはんは明日で待っている』
瀬尾まいこ(幻冬舎文庫)
ビブリオバトルで紹介した『卵の緒』と、セットで読んでいただきたい本です。『卵の緒』とはまた違った家族の形が書かれています。
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『図書館の神様』
瀬尾まいこ(文幻冬舎庫)
この本に登場する垣内くんが、私はとてもとても好きです。内容はあえて書きません。垣内くんがとにかく格好良いのです。どんな話だろうと想像しながら、この本を手に取ってください。
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深田さんmini interview

何でも好きなのですが、ジャンルとしては、特に小説が好きです。作家さんは瀬尾まいこさん、あさのあつこさん、有川浩さん、森絵都さんが大好きです。

『バッテリー』『The MANZAI』『No.6』など、あさのあつこさんの本をたくさん読みました。どの話も登場人物が一生懸命で、読んでいるといつも励まされました。あさのあつこさんの本はどんなときも、私を救ってくれました。また、『ハリーポッター』シリーズも大好きで何度も何度も読み返しました。夏休みにベランダに座って朝から晩まで『ハリーポッター』シリーズを読み続けて、倒れかけたこともあります。

小学校のときに読んだ『アンネの日記』は、私に大きな影響を与えてくれました。非常事態下で営まれていたアンネたちの生活、アンネの心の動きに共感できる点も多く、それまで身近に感じたことのなかった戦争を身近に感じ、様々なことを考えました。悲惨な状況下でも、明るく前向きに生きていくアンネの姿に勇気をもらい、毎日苦しいことがあっても頑張れました。

『僕の明日を照らして』という瀬尾まいこさんの本です。虐待がテーマの話なのですが、今まで読んできた同じテーマの本とは視点が違ったため印象的でした。ラストシーンでは、その結果が登場人物の将来のために1番良い判断なのだと思ったけれど、とても切ない気持ちになりました。「依存」について知りたいと思ったきっかけの本です。

瀬尾まいこさんの本をすべて読みたいです。あともう少しで、すべて読めそうです。そして、それが終わったら、学校の図書館の本を卒業までに読み尽くしたいです。多分無理ですが…頑張ります。