高校ビブリオバトル2018
私の前世は500年前のイタリアのイケメン彫刻家?!
『前世への冒険』
森下典子(光文社知恵の森文庫)
下島優季さん(長野県飯田高校2年)
作者の森下典子さんは、前世なんてこれっぽっちも信じていません。ですが、この本は、森下さんが雑誌の連載の取材で、前世が見えるという女性に会いに行くところから始まる、実話で体験記です。その後NHK・BSでもドラマ化されて話題になりました。
この前世が見える女性は、京都に住む清水さんという普通のおばちゃんです。森下さんはお手並み拝見とばかりに、自分の前世を見てもらいます。すると、「あなたの前世は男性。500年前のイタリア人、色白でイケメンでホモで天才彫刻家だった。彼の名は『デジデリオ』」と言われました。このデジデリオが、この本のもう一人の主人公です。
「デジデリオなんてでっちあげだ。伝記を丸暗記したに違いない」。森下さんは嘘を暴いてやろうと証拠集めを始めます。ですが、デジデリオは500年前、確かに実在していました。しかし、清水さんが話したデジデリオと、本に載っている内容は全然違いました。出身地が違うし、代表作も違う。おかしい。私を騙したかったのなら、なぜ本と全く違うことを言うのか。
不思議に思った森下さんはさらに調べようとしますが、このデジデリオはとてもマイナーな人物で、史料がほとんどありません。いよいよ森下さんは大学教授に調査を依頼し、海外の本まで取り寄せました。その結果、もしかしたら清水さんの言うことの方が、本よりも正しいかもしれないという証拠が出てきたのです。
森下さんは「もし清水さんがどの本よりも正しい話をしていたら、本当に私の前世を見たことになるのではないか」と疑いますが、最大の謎は彼の代表作が『ポルトガル枢機卿の墓碑』という彫刻である、ということです。
どんなに調べてもこの作品は他人が作ったものとされているのに、清水さんはこれがデジデリオの代表作だというのです。しかし、もう日本でできる調査はやりつくしてしまって、自宅は本だらけ。でも思いと憧れはつのるばかり。イタリアに行くしかない、でも行ったって見つかる保証もない…。あるのは出身大学の教授からもらった紹介状1枚だけ。それでも森下さんは、謎の霧の中に足を踏み入れます。
イタリアに旅立った森下さんは、わずかな手がかりを頼りに体当たりで調査していきます。公開禁止の資料があれば大学教授になりすまして見せてもらったり、教会でつまみ出されそうになりながら、これまた研究者のふりをして取材をしたり…。そして滞在最終日、本当にデジデリオの作品なのか、その秘密が明らかになります。
目の前の霧が一気に晴れたような衝撃を前にして、森下さんは一つの結論を出します。どんな結論だったのかは、ぜひ皆さんの目で確かめてください。

この本は、実話だからこその、先が見えないワクワク感と現実味を、そして自分でもこんな冒険ができるかもしれないという期待を味わわせてくれました。森下さんが私たちに伝えたかったことは何だったのか。それは、この本最後の1行に森下さんとデジデリオから私たちへのメッセージとして書かれています。何度読み返しても、この1行に胸が熱くなります。皆さんもこの本を手に取って、デジデリオに会いに行ってみてはいかがでしょうか。
[amazonへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『夜叉ヶ池 天守物語』
泉鏡花(岩波文庫)
少し古い本ですが、好きな人に人間との約束として会いに行ってはいけない龍神、白雪のお話です。物語に出てくる人間にも色んな人がいて考えさせられる話です。(夜叉ヶ池)
[amazonへ]
『富嶽百景』
太宰治(岩波文庫)
太宰の自伝という形式です。特別な大冒険があるわけではないですが、山梨、御坂峠での日々が鮮やかに描かれています。太宰でなければ、人間の何気ない日常をここまで引き込ませられるようには描けません。
[amazonへ]
『あらくれ』
徳田秋声(講談社文芸文庫)
秋声の代表作です。男勝りな主人公お島の半生を描いています。ありのままの人を描いた秋声の文体、書き方がとても好きです。古い本ですがとても読みやすいので、ぜひお手に取ってください。
[amazonへ]
下島さんmini interview

純文学が大好きです。特に好きなのは太宰治です。

現在、スティーブン・コヴィーの書いた『7つの習慣』を読んでいます。半分ほど読んだので、読み切りたいです。