高校ビブリオバトル2018
自分が殺人犯になる気分を味わえる本!?
『最後のトリック』
深水黎一郎(河出文庫)
遠藤駿介くん(静岡県立富士宮西高校2年)
みなさんに紹介するのは、『最後のトリック』というミステリー小説です。ミステリーですから、殺されてしまう人物がいるのですが、ここで皆さんに二つ質問させてください。
一つ目です、デデン!
みなさんは、今までに人を殺したことがありますか?「ある」という人、手を挙げてください。…はい、ありがとうございます。
次に、この本を読んだことがあるという人、手を挙げてください。
…5,6人でしょうか。
今、僕が出した二つの質問から言えることは、一つだけです。この本で出てくる登場人物を殺した殺人犯というのは、僕と、今手を挙げてくれた人たちです。
僕はこの本を手に取った時、帯に「殺人犯は、今この本を手に取ったあなた!」というようなことが書いてあって、まったく意味がわからない、けど、読んでみようと思って、すぐ買って帰りました。
この本は、主人公の小説家と、彼のもとに届く手紙が並行して物語が構成されています。そして、最後の手紙を読んだ瞬間、僕は奇しくも犯人になってしまったんです。皆さん笑ってるけど、本当なんですよ! 今ここに500人くらいの人がいますが、全員が犯人になってしまうんです。信じられないなら、買ってください! 買って、読んでくれれば、「あ、本当なんだ」ってなります。僕だって、今の皆さんと同じように、最初は「犯人になるわけない!」と思って読んでいるんですよ。だけど、読み終えて本を閉じた時には、犯人になってしまうんです。だからちょっとだけ、負けた気がします。トリックが成立してしまうことについて。
それから、先ほど人を殺したという方が一人いましたが、「これが人を殺す感覚なんだ」という大きな罪悪感とその敗北感が大きな衝撃になって降りかかってくるんです。だから、一回読んだら自分が犯人だってわかっているけど、これがたまらなくて、もう何回も読んでしまうんです。そんな感覚、他にないですから。
僕は、この『最後のトリック』っていう題は、『ミステリー史上最初で「最後の」、読者が犯人になってしまう「トリック」』の略だと勝手に思っています。
男性像がぼやけた感じの表紙。あれは「読者全員が犯人に、つまりあの男の人になってしまうよ」という、裏メッセージだと思っています。これは僕の勝手な考えですが、そういうメッセージだと思っています。
先ほど「敗北感」と言いましたけど、僕は「うわ、悔しいな」という感覚になりました。もう隠すことは一切ありません。全員が犯人!読んだ人全員が犯人になってしまうっていう話です。

僕の友達で、「犯人になりたくない」という人がいました。「殺人犯になりたくないけど、駿介が薦めるから読んでみたい」というんです。「じゃあ、最後は手紙で終わるから。その手紙でトリックが成立するので、手紙の直前まで読んでみて」と言います。でも、読みたくなっちゃうんです、 最後の手紙が。だから、結局全員犯人になってしまうんです。
最後に一つ。犯人になるのは、案外悪くないです。 殺人犯になってしまうのは、新鮮でいい気分です。だから、あまり固い気持ちで買わないでください。ちょっと期待して、一緒に殺人犯になってみましょう。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
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