高校ビブリオバトル2018
AIが支配する社会で生き抜くためのヒントが満載!
『人は見た目が9割』
竹内一郎(新潮新書)
小川竜駆くん(大阪市立咲くやこの花高校3年)
今からこの本のタイトルを言いますが、決して怒らないでください。と言うのも、この本には、非常に乱暴で挑発的なタイトルがついています。正義感の強い僕は、とても腹が立ちました。そのタイトルがこちら、『人は見た目が9割』です。
いや、それ言ったらあかんやつやろ!ってね。そうです、一見とっても反道徳的で、なんてこと言うんだ!って言いたくなりますが、決して「ルックスが全てなんだから、美男美女以外の人は残念でした、だから諦めろよ」という、読者を落胆させる本ではないのです。この本を読んだ後、あなたも必ず、「人は見た目が9割」であったことに、むしろ大いなる喜びを抱くはずです。
昨今はコミュニケーション能力が必要な時代と言われますが、皆さん自信はありますか。このグローバル社会で、「もっと英語話せるようにならなくちゃ」とか、「もっとうまく会話しなくちゃ」と思っている方は多いと思います。確かに、言葉によるコミュニケーションも重要ですが、この本に書かれているのは、ノンバーバル、つまり非言語のコミュニケーションです。実はこの著者は、表情やしぐさ、色とか匂い、距離感に至るまで、言葉以外の“表現”をまとめて、「見た目」と呼んでいるのです。
この本は、読み始めたら止まらないのですが、読み終わるまでに時間がかかります。なぜなら、1ページ読むごとに、書いてあることが本当か、人に会って確認したくなってしまうからです。どういうことか、少しだけ説明しましょう。
例えば、皆さんの周りでいつでも足を大きく開いている男性はいませんか。僕のクラスにもいます、必要以上に足を広げている人。この人は一体、どんな人だと思いますか? この本の「仕草の法則」という章には、こういう人は一般的に、大きなロマンを追い求めている人だと言っています。なるほど、きっちりと膝をくっつけた織田信長では天下統一できないですよね。こんなふうに、しぐさの持つイメージってかなり大きいのです。
CMにもノンバーバル・コミュニケーションは多用され、知らぬ間に私たちに刷り込まれています。例えばCMに登場する犬猫たちは言葉で訴えません。下手に言葉を尽くすより、潤んだ瞳が私たちに、「このCMって嘘がないんだ」と信用させてしまうからです。それが結果的に好感度を上げ、購買意欲を掻き立てることにつながります。
これらのように、見た目が様々な効果をもたらす例がたくさん書いてあって、まるで占いや心理テストの本を読んでいるようにワクワクします。僕も書いてあることを実践してみて、長年僕が女性の嘘を見破れなかった理由とか、好きな子の無言のメッセージというのもわかるようになりました。
さらに、誰もが気になるあの謎、「物語の百姓はなぜみんな東北弁なのか?」「ソファの隙間はなぜ気持ちいいのか?」「トイレの距離と恋愛の距離その関係とは?」など、非言語コミュニケーションと何が関係あるねん!という感じですが、これも読めばわかります。
実はこの本の筆者は、心理学社会学の教授でありながら、もう一つ顔があります。劇作家で漫画家のさいふうめいさんなのです。ターミネーターから手塚治虫まで登場するので、漫画や演劇映画好きの人は特に入っていきやすいと思います。
確かに、筆者の言う見た目の中に、生まれ持った体型とか顔立ちが含まれないと言ったら嘘になるでしょう。しかし、それ以外のノンバーバル・コミュニケーションの多さに救われます。そして、見た目の定義ってこんなに自由なんだ、これから身につけられるスキルなんだと感動します。

今の時代だからこそ、この本のメッセージは力強いと思います。AIが支配するようになる社会で、人間にしかできないこととして残るのは、やはりコミュニケーション能力であり、その中でもノンバーバル・コミュニケーションには、何かものすごいヒントがあるような気がしてなりません。
あなたもぜひ、新時代コミュニケーションのバイブル、読んでみてください。もう化粧やファッションに頼らずとも、ほんの少し意識を変えるだけで「見た目」を変えることができてしまうかもしれません。
[amazonへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『恩讐の彼方に』
菊地寛(岩波文庫)
私は、日本の伝統的な仇討物のストーリーも好きでしたが、極めて平和的な結末に向かわせるこの作品はまったく新しい普遍的な魅力を感じました。高い文学性はもちろんですが、仕返しや復讐の無意味さを教えられ、本を読み終わったとき人間ってそんなに悪くないかもと思わせてくれる作品でした。
[amazonへ]
『嫌われる勇気』
岸見一郎(ダイヤモンド社)
アドラー心理学の入門書として非常にわかりやすく、日常生活での疑問や悩みを、青年と哲人の対話によって気持ちよく解決してくれる一冊でした。「なかなか人は変われない」とか「世界は複雑で難しい」という固定観念を取り払い、今日から幸福になりたい全ての人にぜひ読んでもらいたいです。
[amazonへ]
『熱烈文楽』
中本千晶(三一書房)
とっつきにくい人形浄瑠璃文楽の楽しみ方がどんな初心者でも本当によくわかります。僕自身、この本を読んで文楽にハマって中学卒業後、本当に文楽研修生になってしまいました。今はまた普通の高校生に戻ったけど、あの1年間は僕にとって一生の宝物です。
小川くんmini interview

ジャンルは哲学書、戯曲、新書、純文学などが好きです。好きな作家は、つかこうへい、中本千晶、菊地寛、長谷川伸などです。

『ごんぎつね』『じごくのそうべえ』『ルドルフとイッパイアッテナ』『人間になりたがった猫』が好きでした。ちょっと和風な絵本が好きでしたが、いたって普通の小学生でした。『人間になりたがった猫』は、原作を読んでから劇団四季に見に行って号泣しました。

三浦しをん著の『仏果を得ず』で、人形浄瑠璃文楽の世界を描いた伝統芸能系青春ドラマです。昔から伝統芸能にはもとから興味が強かったのですが、この本との出会いが文楽にも興味を持つ最初のきっかけになりました。

米田彰男さんという人の『寅さんとイエス』という本です。最近ハマっていた映画『男はつらいよ』の主人公車寅次郎の性格を、まさかのイエス・キリストと比較しながらその共通性を考察したこの本に、何ともいえない衝撃を受けました。なぜこんなにも彼が魅力的なキャラクターなのかが、世界的宗教と絡めることで明らかになり、とても納得してしまいました。来年は50周年を記念して50作目が公開されるので、この本を片手に見に行きます。

もう少し最近の小説もちゃんと読んでみようと思っています。今はミステリーに興味がわいています。原田マハさんの本はとても読んでみたいです。今はチャンプ本の『最後のトリック』を読んでいます。