高校ビブリオバトル2018
やさしい餡(あん)が問いかける、生きる意味
『あん』
ドリアン助川(ポプラ文庫)
郷原拓実くん(島根県立平田高校2年)
本書は、あるどら焼き屋さんの“あんこ”に関するお話です。舞台となるどら焼き屋さん「どら春」は、一人の雇われ店長がやっています。店長は、一言で言ってしまうとやる気のない人物です。あんの作り方は適当、前日のものを混ぜるのも平気、皮の配合も適当にやって焼くだけ。そんなわけで、このお店は潰れもしないが繁盛もしないといった具合でした。
そんな「どら春」に、ある日一人のおばあさんが現れます。そのおばあさんが独特なんです。最初に「自分の時給は200円でいい」と言うんです。見た目も変わっていて、頬は引きつり、指は鉤爪のように曲がっています。あんを作る姿勢も独特です。
専用の鍋に湯気がかぶるくらいじーっと顔を近づけて、小豆を見ながら煮るのです。おばあさんはこれを「聞く」と言っています。こんなおばあさんの作るあんは超一流においしいのです。そのためこのお店は繁盛します。
雇われ店長は、最初は「あんを作るだけで、店頭で販売はしなくていい」と言いましたが、このおばあさんは子どもが好きなので、子どもがやってくると出てきて接客しようとします。店長はこれをとても嫌がりました。それでも、おばあさんの作るどら焼きはとても美味しいので、店は大繁盛します。
でも、いいことも長くは続きません。ある一つの噂が流れたのです。その噂とは「あのお店には癩(らい)病の人がいる」というものでした。癩病とはハンセン病のことです。このおばあさんは元ハンセン病患者でした。
経営者はこの噂を受けて「あのおばあさんに辞めてもらうように」と店長に言いましたが、店長は反抗しました。最初こそ、その見た目からおばあさんをかなり嫌がっていた店長ですが、いつの間にかおばあさんを庇うようになっていました。しかしおばあさんは辞めてしまいます。
売り上げは戻り、経営者は「ここをお好み焼き屋にする」と言い始めました。店長は付き合いきれず辞めてしまいました。しばらくして店長は、おばあさんが住んでいる元ハンセン病の人の隔離施設へ行きました。しかしおばあさんには会えませんでした。すでに亡くなっていたのです。
これだけを聞くと、とても悪い終わり方のようですが、実はそうではありません。ラストにおばあさんの最後の手紙があります。
「私は垣根の外に出たかったのです。世間へ出て、そこできちんと働いてみたかったのです。誰もが口にするように、世のため人のために働いてみたかったのです。この思いはずっと続きました。病気などいざ知らず、治ってからも園の外には出られない私。こんなにも働いてみたい、世の中の役に立ちたいと思っていたのに、現実は垣根に閉じ込められたまま。世の人々の税金で食べさせてもらっている」。

僕は、このラストは問いかけになっていると思います。その問いかけは、おばあさんの手紙に書いてあったように、自分の生きる意味は何か、自分が社会に及ぼす影響は何か、というものだと思います。この問いかけは僕が感じたものです。皆さんも、この本を読んで自分なりの問いかけを見つけてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
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