高校ビブリオバトル2018

心に流れる音楽をオルゴールに…1冊で7冊分の満足感!

『ありえないほどうるさいオルゴール店』

瀧羽麻子(幻冬舎文庫)

古谷涼風さん(秋田県立秋田南高校2年)

皆さんの心にはどんな音楽が流れているでしょうか。この本は、皆さんの心の中の音楽をより美しくしてくれる、あるお店のお話。このお店の自慢の商品は、人の心に流れている音楽を聞き取って作るオーダーメイドのオルゴールです。

 

そんなお店に来店したのは、ある少年とその母親です。母親は、少年のためにオーダーメイドのオルゴールを注文します。しかしこの注文、とても難しいものでした。なぜならこの少年は、生まれつき耳が聞こえず、生まれてから一度も音楽を聴いたことがないのです。そんな少年のために、店員はある方法でオルゴールを完成させます。

 


その方法はただ一つ、耳を澄ますこと。そうして出来上がったオルゴールから奏でられるのは、少年の心に流れているある音楽でした。この本は、悩みや葛藤を抱えた登場人物たちがオルゴールと出会うことをきっかけに、少しずつ幸せになっていくという姿が描かれています。

 

話は全部で7つ。登場人物のキャラクターや抱えている悩み、そして受け取るオルゴールは全てが異なっているのですが、7つの話そのどれもが予想を上回る展開で、さらに心が温まる結末になっています。1冊で7冊分の満足感が得られるこの本のオススメの読み方は、1日に1話ずつ、1週間かけて1冊を読むことです。

 

そんな素敵なこの本なのですが、私はひとつ気になる部分がありました。それは、6話目に登場するある女の子のお話です。

 

その女の子が手にしたオルゴールが奏でたのは、誰もが聴いたことのあるありきたりな曲でした。はじめそのオルゴールを聴いて、彼女はがっかりしてしまいます。しかし、そのあとは「なぜこの曲が自分の心に流れていたのだろう」と疑問に思い、最後はある一つの結論にたどり着きます。しかし、私はその彼女がたどり着いた結論に納得がいきませんでした。この6話目を読んだあとは、皆さんもきっとこの結論について誰かと語り合いたくなることでしょう。

 

何かをしようと思い立って理由もなく不安に掻き立てられたり、暗い気持ちになってしまったり、そしてそれをうまく言葉で伝えられない時、そんな経験ありませんか。そんな時にこの本に出てくるオルゴールの温かい音色たちが、皆さんの心を優しく包み込んでくれます。

 

このオルゴール店は、とても静かなお店ですが、では、なぜタイトルが、「ありえないほどうるさい」のか。それはこの登場人物の中でただ一人、このお店のことをとてもうるさいと感じている人物がいるからです。なぜうるさいと感じているのか。その理由もこの本を読み進めていくうちに明らかになっていきます。

 

今年の冬はこの本を読んで、心が温まる経験をしてみてください。この本を読んだ幸せを、周りにも届けてくれることを願っています。

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

こちらもおススメ

『うさぎパン』

瀧羽麻子(幻冬舎文庫)

最初の一文から最後の一文まで、とにかく優しい本。作者である瀧羽さんの性格の良さがにじみ出ているような、温かい表現がとても好きです。小学生だった私が初めて手に取り、そして高校生になった今でも手放せないでいるお守りのような本です。

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『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』

望月拓海(講談社タイガ)

とてつもない睡魔がおそいかかるはずの夜中2時に読み始め、夢中になって2時間で読み終えてしまったおそろしい本です。途中までは王道の恋愛小説、しかし最後の最後に明かされる意外な事実には、カウンターパンチをくらった気分でした。

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『さよなら、ビー玉父さん』

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主人公はクズな父親。私が今まで読んだ中でダントツです(笑)。全3章で、2章目まではすごくもどかしい気分になったり、この人は何を考えているのだろうと不思議に思ったりする部分がたくさんあるのですが…大丈夫です。3章目で解決しますから!

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古谷さんmini interview

有川浩さん、三浦しをんさん、中村航さん、瀧羽麻子さんが好きです。

 

「ルルとララ」シリーズです。本の途中に可愛い絵で描かれたお菓子のレシピが載っていて、休み時間に図書室に行っては自分のノートにそのレシピを書き写していました。作ったことは…これから挑戦しようかと思います(笑)。

 

本谷有希子さんの『静かに、ねぇ、静かに』です。現代のSNSを風刺した作品で、私としては現実的なホラーに感じました。イヤミスと似た雰囲気を出しながらも、最後はなぜかすっきりするという、不思議な魅力のある作品です。

 

大会で仲良くなった友達におすすめされた有栖川有栖さんの本をたくさん読んでみたいです。