高校ビブリオバトル2018
120年前、トルコに留学した村田くんの、すてきな人たちとの出会いと別れ
『村田エフェンディ滞土録(たいとろく)』
梨木香歩(角川文庫)
E.O.さん(札幌聖心女子学院高校[北海道]3年)
この本は、120年前の日本人の留学生、村田くんのトルコでの滞在記です。「滞土録」の「土」はトルコのこと。トルコは漢字で「土耳古」と書きます。
舞台は1900年代初期のイスタンブールです。なぜこんな時代に村田くんはトルコに留学したのでしょうか。
1899年にトルコのエルトゥーブル号という船が日本の和歌山県の沖合で座礁するという事故がありました。その際に、日本人の漁民が積極的に救護活動を行なったことに大層感激したトルコの皇帝が、日本人の考古学者を1名トルコに招待することにします。そこでトルコに行くことになったのが村田くんです。村田くん自身は、自分の「村田」という名前とトルコによくある「ムラート」という名前の響きが似ているから選ばれたと思っています。
村田くんが下宿することになったお屋敷は、まさに多様の一言です。屋敷の女主人で敬虔なクリスチャンのディクソン夫人、ドイツ人の合理主義的な考古学者オットー、物憂げな雰囲気でとてもミステリアスなギリシャ人青年のディミィトリス、屋敷の下働きをしているトルコ人のムスリム・ムハンマド、そしてムハンマドが道で拾ってきたおしゃべりをするオウム。西と東が出会うトルコの地で、文化も国も民族も習慣も宗教も何もかもが違う彼らが、時にぶつかり合いながら、それでも互いに敬意を払って友情を育んでいく様子は、まさに青春の一言に尽きると思います。
村田くんはトルコで過ごす中で、のんびりしすぎているトルコの人たちにちょっぴり呆れてしまったり、みんなで雪合戦をしたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり、発掘作業をしに行ったりと、いろいろな経験をします。ですが、そんな彼らの未来は決して明るいものではありません。舞台は1900年代初期のことですから、この後何が起こってしまうのか、想像できる方もいるかもしれません。
登場するキャラクターの中で私が好きなのは、オウムとディミィトリスです。オウムは以前の飼い主の口癖や、よくお世話をしてくれているムハンマドの口癖を覚えています。例えば日干しにしていた食べ物が食べ頃になった時、あるいはディクソン夫人のティータイムがすごく長引いている時、唐突に“It’s enough!(もう十分だ!)”と叫びます。こんなお茶目なオウムがいたらきっと楽しいだろうなと思います。オウムが物語の最後に叫ぶ言葉は、強く私の心に残っています。
また、ディミトリアスは本当にミステリアスな青年です。彼の「私は人間だ。およそ人間に関することで私に無縁なことは何一つない」という言葉を、村田くんはいつまでも忘れることはありませんでした。これは、古代ローマの劇作家テレンティウスの言葉だそうです。古代ローマというととても昔のことのように感じてしまいますが、その言葉が意味している志は、現代にも通じるものがあると思います。

私はこの本を読んで、人間は一人で生きているわけではないということや、誰かと共存することの大切さ、その難しさについて考えさせられました。皆さんもこの本を通して、人間とはなんだろうか、友情ってなんだろうか、そして戦争は何を引き起こしてしまうのかについて、楽しむだけではなくて考える読書をしてみませんか。
ちなみに「村田エフェンディ」の「エフェンディ」とは、トルコ語で、学位を修めた人に対する尊称で、「学士様」や「先生」といった意味になります。村田くんの家にいるムハンマドという下働きの人が、村田くんのことを、尊敬の意味を込めてエフェンディと呼んでいます。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
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