高校ビブリオバトル2018
赤い子犬はどこに?展開の読めないミステリー
『真赤な子犬』
日影丈吉(徳間文庫)
池田朱莉さん(山形県立酒田東高校2年)
皆さんは犬派か猫派かといったらどちらでしょうか。私は猫派で、『吾輩は猫である』『怪盗探偵山猫』など「小説=猫」というイメージを持っていますが、この本は、割と珍しく犬が出てくる物語です。謎に包まれた真っ赤な子犬が人々を振り回すというミステリーです。
私がこの本に惚れた理由は三つあります。一つ目は登場人物の多さ、二つ目は掴み所のない作風、そして三つ目が心をとらえて離さない展開です。順番に説明していきます。
一つ目の、登場人物が多い点。ミステリーは、たいてい登場人物が多いのですが、この本は一つのスペースにたくさん人が押し込まれていないので、登場人物が多いわりに、誰が何をしたかがとてもはっきりしています。それが客観的視点から進むので、感情が混ざらず冷静に読むことができます。
二つ目の、掴み所のない作風について。私は小説を買うとき、ちょっと邪道かもしれませんが、初めに後ろのあらすじを読んで、第1章だけ斜め読みして、最後の章を読んでみます。そうすると、大体自分が予想できる犯人のまま終わっていくのですが、この本は「え?何を言っているの」みたいな感じになりました。だから、私は本屋さんでこの本に惚れて、絶対買って読んでやろうと思いました。しかし、読み進めて、その違和感の正体に気付きかけても、のらりくらりとした作風で逃げられてしまうんです。
そして三つ目の心を離さない展開について。この本では、なんと初めに主人公っぽい人が死んでしまいます。主人公が美味しそうなステーキに毒をふりかけて、それを食べながら自殺する気満々で部屋に戻ってきたところ、知り合いの大物政治家がステーキをつまみ食いしたのを見て、主人公はびっくりして4階から転落して死亡、というところから始まるんです。

ここまでで、もういくつか謎があります。一つ目。毒入りのステーキをつまみ食いして、死にかけていたはずの大物政治家は一体どこに行ったのでしょうか。二つ目、主人公はなぜ4階から落ちたのでしょうか。驚いた拍子なら、別に軽く転んだだけでもいいですよね、ですが転落死しています。なぜ落ちたのでしょうか。そして三つ目、真っ赤な子犬は一体いつ出てくるのでしょうか。
私がこの本に惚れた理由、登場人物が多い点、掴み所のない作風、そして心を離さない展開。これであなたのミステリー魂に火がつくことを願っています。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『都会のトム&ソーヤ』
はやみねかおる(講談社)
中学2年生の男子2人が大暴れする話!!初めて出会ったのは小4で、高1の時に完結しました。彼らのような生活に思いを馳せていました。平凡な生活にも冒険はあふれている!!そう気づかせてくれた一冊でした。シリーズなのでぜひ読んでください。
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池田さんmini interview

ミステリーが好きです。命の糧です。有栖川有栖さん、青崎有吾さんが特に好きです。

『こころ』です。授業で教科書に出てきて、3年ぶりに読みました。3年前には理解できなかった「K」の心情に同感している自分に驚きました。

作者買いするタイプなので、もっと他の作者さんにもチャレンジしたいです。