高校ビブリオバトル2018
イラク戦争下、テロ組織に拘束された日本人人質の運命は?
『砂漠の影絵』
石井光太(光文社)
住森早紀さん(ノートルダム清心高校[広島]2年)
2003年にアメリカを中心とした連合軍がイラクに軍事介入したことに始まり、2011年まで続いたイラク戦争。この本は、このイラク戦争を舞台とした話です。戦争を舞台とした話は、難しそう、面白くなさそうと思う方もいるかもしれませんが、そういった方にこそオススメしたい一冊です。
主人公の橋本優樹は大企業に勤めていて、仕事でイラクのバグダッドに向かっています。その途中でフリーのフォトジャーナリストをしている久保海男と出会い、行動を共にしますが、途中で地元民の検問に引っかかってしまい、2人はとある武装組織に引き渡されてしまいます。
とある武装組織とは、数多くの外国人の殺害に関与しているとされていたテロ組織の「イラク聖戦旅団」。そして、すでに拘束されていた外務省に勤めている四条宗一、NGOで働く井上静香、大学生の源くるみの3人とともに人質とされてしまいます。
イラク聖戦旅団は日本政府に要求を突きつけます。彼らの要求は「イラクからの自衛隊の撤退。1週間以内に自衛隊を撤退させなければ、人質の中から1人目を殺し、2週間以内に撤退させなければ2人目を殺し、3週間以内に撤退させなければ残った人質は全て殺す」というものでした。
しかし、日本政府はアメリカからの圧力もあり、自衛隊を撤退させることができません。そして1週間後、結局人質の中からキリスト教徒であった井上静香が殺されてしまいます。
ここまで聞いて、この事件について、おそらく多くの人が「恐ろしい事件が起きてしまった」や「イラク聖戦旅団って怖いなぁ」、また「戦争が起きているような時にイラクに行く方が悪い」なんて思った方もいるかもしれません。
この本は、橋本優樹を含めた4人の登場人物の視点から描かれています。4人のうちの一人、日本にいる新聞記者の白木奈々の視点から見た話を読むと、私たちが感じるように、恐ろしい事件が起きたという感覚だったり、また日本国内で人質の“自己責任論”が巻き起こっていく様子が描かれていますが、一方で残りの2人、イラク聖戦旅団のボスであるアリとナンバー2のクサイの視点から見た話を読むと、印象がガラリと変わります。
アメリカはイラク戦争で数多くの街を破壊し、多くの一般市民を殺害しました。そしてイラク聖戦旅団は破壊された街へ行き、けが人の救助活動を行ったり、病院を経営したりしました。なぜイラク聖戦旅団が外国人を人質に取るのかというと、それは純粋にイラク国内から軍隊を撤退させてほしい、そして元の平和な世を取り戻したいと願うからだ、ということが描かれています。これを読むと、彼らが一概に恐ろしい集団だとは言えないと思います。
物語は、人質の解放に向けて奔走していく人質の家族や友人の話や、日本政府の形ばかりの対応、またイラク聖戦旅団の内部抗争と、どんどん展開していきます。先の読めない展開でどんどん引き込まれていきます。この本はあくまでフィクションですが、イラク戦争の実態がリアルに描かれていて、深く考えさせられます。

その一方で、人質の5人が一緒に影絵をして遊んだり、「蛍の光」を一緒に歌ったりするなど、助け合って生きていこうとする心温まるシーンも多くあります。
印象に残ったのは、イラク聖戦旅団のナンバー2のクサイと橋本優樹が会話するシーンです。クサイの「どうして個人と個人では分かり合えるのに、国や組織になるとそれができないのかな」という言葉は、この世界の難しさというものを表しているように思われました。
果たして残った人質は助かることができたのでしょうか。衝撃を受けること間違いなしです。
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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>
こちらもおススメ
『花の鎖』
湊かなえ(文春文庫)
3人の女性の視点から話が進んでいき、ラストで全てがつながって衝撃を受けました。絶対に2回読みたくなる話です!そして、1回目より2回目の方が伏線がたくさんはってあったということに気付くのでより面白いです!
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『図書館戦争シリーズ』
有川浩(角川文庫)
登場人物一人ひとりのキャラが個性的で、会話とかすべてがとても面白いです。胸キュンシーンもたくさんあります!図書館や本を守ろうとする姿に胸を打たれます。映画も、本の世界観を忠実に再現していて面白いのでオススメです!
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『ソロモンの偽証』
宮部みゆき(新潮文庫)
中学生が主人公の物語で、中学生の時に読んだので、共感するところも多くありました。いろんな生徒の交錯する感情がリアルに描かれていて、とても読み応えがあります。最後に全てを覆すような結末が待っています。
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住森さんmini interview

基本的に小説全般が好きです。ミステリーも恋愛ものも、ノンフィクションも何でも読みます。好きな作家は、湊かなえさん、有川浩さん、そして石井光太さんです。

「若おかみは小学生」シリーズがすごく好きで、新刊が出る度にすぐ買ってもらって読んでいました。全巻10回ずつくらい繰り返し読みました(笑)。そして青い鳥文庫のファンクラブにも入って「若おかみは小学生」の登場人物の絵を描いて送ったら、2回ファンクラブ通信に載りました!! 登場人物もストーリーも大好きでした。また、小5でインフルエンザになった時に、湊かなえさんの『夜行観覧車』を読んですごく衝撃を受け、それ以来湊かなえさんの本が大好きです!

私の人生に影響を受けた一冊は、石井光太さんの『世界の美しさをひとつでも多く見つけたい』という本です。石井光太さんが作家を目指した理由や、これまでの作品に込めた思いが綴られており、自叙伝のような一冊です。この本から、世界には知らないことが多すぎるということを改めて実感したし、苦しい状況に生きている人は、その人にとっての希望や幸せを集約した「小さな神様」を抱いているという言葉が印象的でした。「自分の文脈で勝手な価値観を押し付けるのではなく、相手の文脈で大切にしている物を探す」など、これからの人生で大切にしていきたい言葉が多くありました。

学校の映画上映会で『ラプラスの魔女』を見ました。映像に迫力があって、また、ストーリーもとても面白く、引き込まれてしまいました。その後、原作本も読みました。映画には出て来ない登場人物や話もあり、新たな気持ちで『ラプラスの魔女』の世界観を楽しむことができました。映画も原作本も、どちらも面白かったです。

今回のビブリオバトルで、気になった本がいくつかあったので読みたいです。将来の役に立つような本(新書など)をもっと読みたいです。