高校ビブリオバトル2018

20年前の自分と入れ替わって恋人の過去を変える! 時間跳躍ミステリーが開幕

『ダンデライオン』

中田永一(小学館)

野村紳二くん(沖縄県立那覇西高校3年)

もし、小学生の時に戻って自分に何かを伝えることができたら、僕は「ウリボウはイノシシの子どものことをいうんだよ」と伝えたいです。実は、つい先週まで、ウリボウとイノシシは別の生物だと思っていたんです。友人に指摘され大恥をかいたのが、今年の始まりです。

 

こんなみっともない話ではなくても、みなさんも一度や二度は過去を変えたいと思ったことはありませんか。この本の主人公は自らの過去ではなく、自分の彼女の過去を変えたいと思いました。主人公である31歳の下野蓮司は、20年前にある不思議な体験をします。それは、20年後、すなわち今の自分と入れ替わったことがあるのです。たった7時間だけ。

 


今から20年後といったら、スカイツリーより高い建物が建っているかもしれないし、月と地球がつながっているかもしれない。そんな妄想が膨らむ20年後ですが、小学生の主人公はそんな未来を見てきました。そして、その経験を糧にしてある計画を立てることにします。時を同じくして31歳の主人公は、今から過去と入れ替わるという心構えをしていました。

 

ここまで聞いたら、非現実的なSFやファンタジーの小説だと思うかもしれませんが、この小説、実は、完全なミステリー小説なんです。

 

下野蓮司には恋人がいます。彼女の名は西園小春。小春は昔、両親を強盗犯に惨殺されていたんです。彼女自身もその強盗犯に殺されかけました。31歳になった下野蓮司は、今度は20年前に戻り、彼女の危機を救って強盗犯の手がかりを探ります。そのために、20年後の自分と入れ替わった小学生の時から、緻密に計画を立てていたのです。

 

この本のタイトルの『ダンデライオン』は、タンポポという意味です。タンポポは人が横切っただけでも綿毛が散ってしまう。それは過去の流れも同じで、触れてしまうと決まっていた未来が散ってしまう。そしてその散った未来が新しく芽吹き、異なる未来へと変わっていきます。その未来が良いものなのか悪いものなのかはわかりません。悪い未来もあるし良い未来もあるでしょうか。

 

この小説の最後の一文は、「小春は、顔を覆って泣いていた」。下野蓮司は過去に戻って小春を救うことができるのか。そして、犯人を見つけ出すことができるのか。小春が泣いていた理由とはいったい何なのか。7時間というタイムリミットで、20年前という過去と未来を行き来する時間跳躍ミステリーが、今ここに開幕します。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2018全国大会の発表より>

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野村くんmini interview

近藤史恵著の『わたしの本の空白は』です。犯人を探し求めるという従来のミステリーではなく、自分自身の正体を暴くという新しいタイプのミステリーで、とても印象に残っています。

 

今後は恋愛小説から幅を広げ、ミステリーホラーも手に取ってみたいと思っています。