高校ビブリオバトル2019

人はいつから犯罪者になるのか? 三億円犯人が語る事件の真相

『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』

 白田(ポプラ社)

鈴木玲音くん(福井県立武生東高校2年)

ちょっと生々しい質問をします。お金が好きな人、お金が欲しい人、手を挙げてください。はい、僕も皆さんと一緒で、お金が大好きです。お金が欲しいです。そんな僕が、「この本を読んだら3億円手に入るんじゃないか」と思って読んだのがこちら、『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』です。このタイトルにある府中三億円事件は、実際にあった未解決事件です。

 


今から約50年前の1968年12月10日、白バイ隊員を装った男が、3億円の現金を積んだ輸送車を車ごと盗んでしまいました。結局犯人は見つからず、都市伝説になった未解決事件です。いろいろな論争がありましたが、それに終止符を打ったのがこの本です。作者であり、犯人である「白田」が事件の一部始終を告白します。こんなタイトルですから、計画の全貌や手口、動機が分かるんじゃないかと思って読みました。

 

でもこの本、なんと恋愛小説だったんです。こんなタイトルと表紙から、恋愛小説って想像できますか。僕は見事にだまされてしまいました。

 

この本には登場人物が4人います。1人目は本作の主人公の白田くん。2人目が主人公の親友の省吾。3人目がこの男性2人をとりこにした京子ちゃん。そして4人目が主人公の白田くんに惚れた三上さん。この4人から繰り広げられていく恋愛と府中三億円事件が、本当に関係があるのか、気になりませんか。これが、しっかり関係があるんです。あの男女4人が出会いさえしなければ、この事件は起きることはなかった。計画が進むにつれて、4人の恋もヒートアップしていく。全員が事件のキーパーソンなんです。

 

ところで、僕はこの本が恋愛小説だと紹介していますが、正直、恋愛小説は苦手です。恋愛にいい思い出がなかったんで。そんな恋愛小説が苦手な僕でも、買ったその日にスマホの存在を忘れるぐらい、あっという間に読んでしまいました。なぜ僕が読めたのか。それは事件と時代のリアリティーが半端ないからです。

 

1968年は、学生運動のデモ活動が盛んに行われていました。当時の若者たちは「俺たちが日本を変えるんだ」という熱い思いで、命がけで日本を変えようとしました。当時の若者は、とにかく熱かった。僕は実際その時代に生きてはいませんが、この本を通して当時の若者たちのエネルギーみたいなものを、時代の波を感じることができました。

 

そしてもう一つ、のめり込んでしまった理由があります。それは白田くんが、3億円を奪ったこととは別の罪を告白しているんです。それは、この本でしか明かされることがなかった、事件の核心となる罪です。

 

この罪に対して、白田くんは読者にこんな質問を投げかけています。「人はいつから犯罪者になるのでしょうか」。僕は人を殺したとき、何か物を奪ったとき、法律を犯したときに犯罪者になると思っていました。でも、白田くんはそれだけじゃないと言っています。人を裏切ろうとしたとき、人を欺こうとしたときの自分は何だったんだ、と自分を責めているんです。未解決事件の真相、4人の恋の行方、そして白田くんの犯してしまったもう一つの罪とは…? ぜひ読んでください。

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鈴木くんの発表は、準優勝(準チャンプ本)を受賞しました。

 


<全国高等学校ビブリオバトル2019全国大会の発表より>

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