高校ビブリオバトル2019

同じ1日がまたやってくる!?~その不思議に隠された優しく深い愛

『流星コーリング』

河邉徹(KADOKAWA)

積風我くん(鹿児島県立大島高校3年)

僕の住んでいる奄美大島という島は、夜星がすごくきれいに見えます。どのぐらいきれいかと言いますと、都会の夜景を、全部夜空に持って行ったような感じです。光が本当にうるさいぐらい輝いているんです。そんな星の中でも、今日は流れ星についてのお話、「流星コーリング」という本をご紹介します。

 

この物語の主人公は、りょうという男子高校生です。このりょうは、天文部という部活に入っています。天文部には、りょうと同じように星が好きな仲間たちや、心の通じ合った詩織という彼女など、そういった部員たちがいました。そんな天文部が、ある日人工流星を見に行くことになったんです。

 


人工流星、それは人工的に作られた流れ星。夜空を真っ暗なキャンバスに見立てて、たくさんの流れ星を登場させる、壮大な光のショーです。そんな人工流星が世界で初めて、しかも自分たちの地元、広島で見ることができる。これはもう、天文部じゃなくても見に行きたいですよね。僕も見に行きたいです。

 

その日は金曜日でした。りょうたち天文部の生徒たちは、人工流星を見ることができました。この世の物とは思えないぐらい、たくさんの流れ星が夜空を覆い尽くす、とてもきれいなものでした。でも詩織だけは熱を出してしまい、その日人工流星を見ることはできませんでした。その歴史的な金曜日も終わり、りょうは眠り、次の朝を迎えたんです。

 

ここで事件が起きました。りょうが次の朝起きてテレビを見ていると、そこから「今夜金曜日、世界初の人工流星が……」というアナウンサーの声が聞こえてきたんです。おかしいぞと。きょうは土曜日のはずだし、人工流星はもう昨日終わったはずじゃないか、と、りょうは考えるのです。昨日と一緒だったのはアナウンサーの声だけではありませんでした。朝ごはんに出てきたパンも昨日と全く一緒、1時間目の英語の授業で先生が話すことも全く一緒、さらに休み時間に友達が話しかけてくるタイミングも、その内容も、全てが全く昨日と一緒なのです。そう、りょうはなぜか、同じ一日、金曜日をもう一度繰り返してしまうことになったんです。

 

「どうしてだ」とりょうは不思議に思います。この理由を探るために、りょうはいろいろなことを試していきます。まず流れ星に何か力があるんじゃないかと考え、流れ星が見えなくなるぐらいまで遠くに逃げてみました。しかし次の朝起きてみたらまた同じ金曜日、また同じパンを見ることになるんです。

 

そしてその次に、神様にお願いすればいいんじゃないかと思い、神社に行ってみましたが、これも駄目。次の朝起きてみたらまたまた同じ金曜日、またまた同じ先生の話を聞くことになるんです。りょうはいよいよ怖くなっていきます。俺はもうこの1日から抜け出すことはできないのかも。りょうは半ばあきらめかけていました。でも、りょうにはどうしてもやらなければいけないことがあったんです。そのためには何としてでも次の日を迎えないといけなかった。同じ日の繰り返しではいけなかったんです。じゃあ、なんでりょうは1日を繰り返してしまうのか、どうすれば解決し、次の日へ進むことができるのか。

 

僕はこの理由を知ったときに、とても大きな愛を感じました。というのも、りょうは物語の中で、ある大きな痛みを抱えているからです。その痛みを物語のラストで克服し、りょうは新しい自分と出会うことができるのですが、そんなりょうの姿を見ていたら、僕も愛を感じずにはいられませんでした。愛って、誰か人のことを真剣に思い、そして考えることなんだなと。そこにはプラスの感情だけではなくて、マイナスの感情も絶対にあるけれども、そのマイナスの感情を全てのみ込んでくれるような、そんな優しいものが愛なんだなということを知ったんです。

 

人間なら誰もが持っている、つらいとか、苦しいとかそういったマイナスの全てを受け入れてくれて、あなたはそのままでいいんだよ、そのままで前に進んでいこうよ。そういったことを言ってくれるようなとっても優しいお話が、『流星コーリング』でした。

 

この本、いいところがいろいろあります。いろいろあるんですけれども、僕が今日皆さんに何を一番伝えたいかといいますと、この本、僕、すごく感動したんです。特に217ページの第14行目から後、ここは僕、ずっと感動で鳥肌を立てながら、物語を読み進めていました。でも、感動したという言葉は、もう使い古されているじゃないですか。本屋さんに行けば、平積みされたほとんどの本に、泣けた、感動したと。もう見飽きたよって思っていらっしゃる方は、結構いると思うんです。でも僕はあえて言いたい。この本には、もはや「感動した」以外の言葉は必要ないんですよ。

 

あなたの前にある道が必ず変わるんです。昨日と違う明日になります。こんなはずじゃない。嫌だ。明日なんて来なければいいのに。そう思っている自分を乗り越え、新しい自分に出会うことができるんです。

 

すごく優しい『流星コーリング』という本を皆さまにご紹介したいという一心で、本日1259キロ離れた南の奄美大島から、大都会東京にやってまいりまして、こうやって皆さまの前で今、お話をさせていただいております。この気持ちが少しでも伝わって、この本は気になるなとか、読んでみたいなという思いを持ってくださったら、僕にとってこれ以上の幸せはありません。

 

そして、物語の中に出てきた、人工的な流れ星「人工流星」というものが、なんと今年2020年、本当に見ることができるんです。しかもここ日本の、広島県です。この中でも、もしかしたら広島県出身の方や行ったことがあるという方がいらっしゃるかと思いますが、歴史上初、世界初、人類初の大きな大きなイベントを前に、この本で流れ星を感じてみるのもいいかもしれません。そして本のタイトル、『流星コーリング』という言葉にも、実は、タイトルであるという以上に大きな思いが隠されているんです。このタイトルに隠された本当の思いとは何なのか。『流星コーリング』……流れ星があなたを呼んでいます。

 

[amazonへ]


<全国高等学校ビブリオバトル2019全国大会の発表より>

こちらもおススメ

太陽の塔

森見登美彦(新潮文庫刊)

作者の森見登美彦さんの独特の文体や雰囲気がとても好きです。心の底から楽しむことができた一冊でした。

 [amazonへ]

 


人魚の眠る家

東野圭吾(幻冬舎文庫)

日本の脳死制度を題材とした本です。読む前は制度について全くの無知でしたが、この本をきっかけにして新たな知識や問題点を見つけました。

 [amazonへ]

 


かがみの孤城

辻村深月(ポプラ社)

第6回大会ゲストである辻村深月さんの言わずと知れた代表作です。予選の質問の時に、『流星コーリング』は人生で2冊目の、読んで泣いた本ですと言いましたが、『かがみの孤城』が人生で初めて読んで涙が出た本です。

 [amazonへ]


積くんmini interview

好きな本のジャンルは小説です。好きな作家は住野よるさん、三秋縋さん、辻村深月さん、河邉徹さんなどです。

 

角川つばさ文庫の『はやぶさ』という小説です。無人小惑星探査機のはやぶさの話です。数々の困難を乗り越え、地球帰還を果たしたはやぶさの姿に小学生ながら感動をおぼえました。今でも大切な本の中の一冊です。

 

現在好きな小説ジャンルの本はこれからも読み続けたいと思います。それに加え、来年からは大学生になるため、文学的、学術的な書籍も数多く読んでいきたいと考えています。