高校ビブリオバトル2019
これでもか! という非リア充いじりと、あっと驚くどんでん返し
『世にも奇妙な君物語』
朝井リョウ(講談社文庫)
野口幸芽さん(東京都・豊島岡女子学園高校2年)
皆さんはリア充ですか。リア充ってよく聞くけど一体どういう意味でしょうか。学校の国語科の先生に伺ってきました。ある先生は言いました。「友達がいること」。また別の先生は言いました。「食って寝て活動すること」。皆さんはどう思いますか。そしてもう一度質問します。皆さんはリア充ですか。
今日私がご紹介するのが、朝井リョウ先生の『世にも奇妙な君物語』です。少しあらすじをご紹介します。
ある時、日本は超へんてこな法律を作ってしまいました。それは、「18歳以上の国民は『リア充裁判』という審査に参加しろ」というものです。その審査では、自分がこれまでいかに陽キャで、パリピで、ひゃっほーな楽しい人生を送ってきたかを全力証明しなければならないのです。そして、恐ろしいことに、審査で不合格になると罰があります。それは例えば「クリスマスは、ミニスカサンタのコスプレをして、サークルの先輩の家で鍋パーティー」とか、「ハロウィーンはセクシーな魔女っ娘のコスプレをして、渋谷のスクランブル交差点でトリックオアトリートと100人にお菓子を受け渡す」などということをさせられる、というものです。
「いや、こんな世界おかしい」と考える主人公が、リア充裁判にかけられる日がやってきました。しかし、その裁判は前代未聞の思いもよらない方向に進み、実は、そもそもその裁判は…というお話です。
この本で私がお勧めしたいポイントは、全部で三つあります。一つ目はこの1冊でいろいろ楽しめるところです。実はこの本は短編集です。今私がお話ししたのは、そのうちの一つにすぎません。一つ目はミステリー、二つ目はスクールカースト、三つ目は青春、四つ目はもうどろどろの昼ドラマ、そして五つ目がコメディーです。これでもう5ジャンル読めます。
ですが、この本はそこで終わらないんです。最後の五つ目の話を読むと、一つ目から四つ目の話が全く違った視点から楽しめるようになります。何を読むか迷ったら、ぜひ読んでみてください。コスパはめちゃめちゃいいです。
二つ目が予想外のどんでん返しと、それに続く恐怖です。ドキドキハラハラしながら読んで、なるほどと納得したところで、予想を大きく裏切るどんでん返し。それぞれの話が、それぞれ違う意味でラストが怖いんです。女性の社会進出の問題だったり、今の社会風刺だったり、ホラーだったり。ところが、どれだけどんでん返しされても、怖くても、本を閉じるときには爽やかな気持ちになれます。それがなぜかは、ここでは言えません。
三つ目は、小説だからこそできる仕掛けです。面白い本って、よく映像化されたりドラマ化されたりしますよね。私が初めて読んだとき、もうめちゃめちゃ面白くて、映像化した方がいいんじゃないかと思いましたが、読んでいくうちに、小説でしか表せないある仕掛けがあることに気づきました。
ここまで聞いてくださって、ひょっとすると皆さんは、この話をリア充とか今時っぽい内容と思われたかもしれません。ですが、私がなぜ今日この本を持ってきたのか。それは、自分と自分の身の回りにいる人に、より一層感謝できるようになるからです。
私は、この大会に出るにあたって、もうすごく緊張して、1週間前ぐらいからずっと胃が痛かったのですが、昨日の土曜日2、3時間ぐらい友達に付き合ってもらって話を聞いてもらったり、先生が「いつもどおりやりなさい」と言ってくださったり、昨夜両親が遅くまで「こうやってしゃべったらいいんじゃない」とアドバイスしてくれたり。他にもいろんな人に支えられて今私はここに立っています。そして、聞いてくださる皆さんがいるから私はこの本の紹介ができています。このように、当たり前のことの有難さが再確認できるのがこの本です。

と、ちょっと真面目になってしまいましたが、どんでん返しがあって、オールジャンル読むことができて、そして小説ならではの仕掛けが味わえます。朝井リョウ先生は、文章のタッチもすごく軽快で、読みやすいですよね。私は、他にも『桐島、部活やめるってよ』とか『何者』とか『何様』とか、いろいろな本を読んでいますが、中でもこれが一番面白いと思います。ぜひ読んでみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2019全国大会の発表より>
こちらもおススメ
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個性的な殺し屋さんたちのお話です。戦闘シーンや裏家業グッズなどがリアルで、引き込まれます。殺し屋という一般的には悪人と呼ばれる登場人物たちですが、それぞれに複雑な過去があることが明らかになった後からは、感情移入せずにはいられませんでした。
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女王はかえらない
降田天(宝島社文庫)
現実に忠実すぎるいじめの描写が印象的でした。小学生女子の、「グループ」意識や「権力」意識がよくわかる作品だと思います。また、ミステリーとしても楽しめる作品で、最後のどんでんがえしを読んだときの衝撃は今でも忘れません。すべてが明らかになった時に、タイトルの本当の意味がわかって鳥肌が立ちました。
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掲載禁止
長江俊和(新潮文庫刊)
短編集で、それぞれの短編ごとに違った意味で恐怖心を煽られます。人が絶対に死ぬ瞬間を見ることができるバスツアーの話は、「なぜ確実に人が死ぬところを提供できるのか」を、読者が各所の伏線から考えられるところが面白かったです。
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野口さんmini interview

ミステリーが好きです。あと、最後にあっと驚くどんでん返しがある本が大好きです。好きな作家さんは、湊かなえ先生と綾辻行人先生です。

小学生の頃、というより今でも好きなのですが、はやみねかおる先生の『夢水清志郎』シリーズや『都会のトム&ソーヤ』シリーズが大好きで、全巻読みました。地元の図書館や学校の図書館を探しまわって借りて、借りたその日に読み終えてしまうくらい熱中して読みました。
なかでも『怪盗クイーン』シリーズは、今でも最新刊発売日に買いに行きます。ドラマチックな展開や独特の世界観、小ネタなどがぎっしり詰まっていて、何度読んでも飽きません。むしろ、読むたびに新しい面白さを発見できるのが魅力です。