大学生が薦める、高校時代に読んでおきたい本

~大学の授業と本を紹介

猪股大輝さん(早稲田大学教育学部教育学科教育学専攻教育学専修・3年)

                                                                                                 ※学部・学年は20183月現在

高校時代に読んでおきたい本

『脱学校の社会』

イヴァン・イリッチ著、 東洋/小澤周三訳(東京創元社)

イリッチの『脱学校の社会』は、「学校」に学び、より上位の学校へと進学しようと思う全ての人に読んでほしい一冊です。彼は本書で、徹底的な学校制度批判を展開し、学校制度こそが我々を「悪く」していると指摘します。一読すればわかる通り、イリッチの主張には無理があるところも多くあります。特に彼が構想しようとした「脱学校社会」(deschooling society)はユートピアの段階に留まり、そのまま現実化できるものではありません。しかし、彼の議論は、学校教育が「善い」もので、それを「当然」と思ってきた我々の常識を揺さぶるのに充分な威力をもっています。また、その議論が身近な「学校」を扱っているからこそ、初学者でもそれなりに自分の体験に引きつけて読むことができるのではないでしょうか。「普通」を疑い、自分が何者で、何をしているのかを知ろうとする「学問」という営みへの入門として本書をおすすめします。

 

[出版社のサイトへ]

進路について話そう

■進路に影響を与えた本

 

私が「教育学」に興味を持ったきっかけは、高校時代の生徒会活動を通じて自分の学校のみならず様々な学校の実情とその差異に触れたことにあります。しかし、そもそも問いを立てて考えてみようとする常日頃の姿勢は、立花隆の『宇宙からの帰還』(中公文庫)を読んだ時から始まったように思います。「外」から地球を見つめた時、宇宙飛行士は何を思ったか、そのエピソードは私の考え方を相対化し、様々な物事を考えさせるきっかけになりました。

 

■進路を決めるにあたって、とった行動

 

学校の先生になるための勉強ではなく、より広く「教育」という営みについて学びたかった私は、そのような勉強ができる「教育学部」を探すところからはじめました。早稲田大学で言えば、教育学部教育学科教育学専攻教育学専修、あるいは文学部教育学コースがそれにあたっていたので受験を決めました。

 

入学してからわかったことですが、「教育学部」には大きく2つの類型があります。1つは学校の先生(幼小中高)を養成するための教育学部(多くの場合教員免許の取得が卒業要件になっています)で、もう1つは学問としての教育学を専攻・研究するための教育学部(及び文学部)です。前者は地方の国公立大学や教育大学、中堅私立大学などの教育学部に課程があり、後者は旧帝国大学の教育学部、筑波大学、広島大学、御茶ノ水女子大学、奈良女子大学などの旧高等師範学校の流れを組む国立大学、および早稲田大学を含む一部私立大学の教育学部や文学部の中にある教育学コースに課程があります。この違いをきちんと見極め、自分は何をしたいのかをよく考えて学部選びをすると良いと思います。後者の課程を持つ大学でも教員免許を取得することはできますが、取得科目に制限がある場合も多いのでその点もよく調べましょう。

 

■進路や大学を決める際に、大事だと思うこと

 

大学の名前だけで進路を選び、全く興味のない分野の学部に進むと、専門の必修科目に興味が持てなくなり、ストレートで卒業することが難しくなります。具体的に「○○学がやりたい!」までは思っていなくても構いませんが、ある程度興味が持てそうな分野を絞って受験することをおすすめします。

 

また、「何をやりたいかわからない」から「何でもできる」ことを売りにした学部を受けることはおすすめしません。政治学なら政治学、経済学なら経済学、文学なら文学とそれぞれの専門学部に進まないと、ゼミ選びなどの段階で、「○○学っぽいことをやっている先生はいるけれど興味があることが違う……」とか、「あの先生のゼミの雰囲気に馴染めそうにない……」などと思って、学びを断念したり、方向を大きく変えることを迫られたりする場合があります。「何でもできる」ことを売りにした学部を受ける場合は、専門がある程度決まった学部を受ける場合以上に所属する先生や専門領域を調べ、自分の興味をよく考えながら受験を決めるようにしましょう。

 

■教育分野に進みたいなら高校時代に読んでおきたい本

『学校って何だろう 教育の社会学入門』

苅谷剛彦

(ちくま文庫)

[出版社のサイトへ]

『学校の戦後史』木村元

(岩波新書)

[出版社のサイトへ]

『問いからはじめる教育学』

勝野正章、庄井良信

(有斐閣ストゥディア)

[出版社のサイトへ]


大学の授業を紹介! 面白いと思った授業はこれだ

■教育哲学研究1(2年次以上、秋学期)

『社会契約論』、『人間不平等起源論』などの著作で知られ、世界史や倫政の教科書にも登場するジャン・ジャック・ルソーの教育論(?)『エミール』の読解を通じて、教育を批判的に考える「メス」を手に入れることを目指します。「教育」という営みを深く考えるきっかけとして最適な専門科目の授業です。ちなみに先生は早稲田の落語研究会出身、(ウケる人にはウケる)ジョークも見どころの1つかもしれません。

 

ルソーの『エミール』は、教育学徒の必読書として世界中で読み継がれてきました。しかし、いざ誰の助けも借りずに『エミール』を読もうとしても、読解できない部分が多くあったり、『エミール』の熱っぽい語り口にアテられて、フレーズごとの拾い読みに終始してしまったりする場合が多くあります。こうした表面的な読み方を退け、正しく、深く本を読む姿勢を手に入れることは、学問を進める上で極めて重要なことになります。そうした態度を身につけるためにもこの授業を受講することをおすすめします。

 

文学の近代(文学にとって近代とは何か)(1年次以上、秋学期)

森鴎外の『舞姫』、夏目漱石の『こころ』など、日本の明治期に生み出された数々の有名な小説を手がかりに、近代とはどういう時代、あるいは「思想」だったのか、近代小説とは何かについての講義です。

 

高校時代の「国語」で習ったような読みとは全く異なる、「プロ」の読解を体感できる授業です。何が面白いのかイマイチわからなかった近代文学の面白さが体験できるとともに、それらに通底する「近代」という思想を理解することは、現在の「私」を相対化し、深く理解する端緒となります。他の学問をする場合でも、まさに「教養」として持っておくべき、思考に深みを与えてくれる内容を学ぶことができます。