ふくろう先生の新書探検隊
第1回 貧困・格差を考えよう
『現代の貧困 ワーキングプア/ホームレス/生活保護』
岩田正美(ちくま新書)
著者は、日本女子大学教授(現在は、日本女子大学名誉教授)。専門分野は社会福祉学、テーマは貧困・社会的排除と福祉政策です。
いったん貧困になるとそこからなかなか抜け出せない
~扶助や手当の提言

貧困には、1年の収入が300万円以下の人、生活保護を受けている人といったように、いろいろな尺度があります。要は貧しいということです。筆者は、「貧困」は「あってはならない」状態だと社会が判断し、社会がそういう状態をなくす義務があると考えています。
本書では、「貧困」研究の歴史を紹介し、貧困の尺度が時代とともに変化していることを示します。いろいろな基準を用いて「貧困」ライン以下の世帯数を調べています。例えば、2000年OECD(34カ国(現在は35か国)の先進国が作る経済協力機構のこと)加盟国の貧困率(国民の何%が貧困ライン以下かを示す)を見ると、日本はワースト5位で約15%とのことです。ちなみに、アメリカはワースト2位で17%、OECDの平均は10.4%でした。
しかも貧困になった世帯がずっとそのまま貧困であり続けるということを調査により浮かび上がらせます。貧困は、心の病や病気、自殺や孤独死、虐待などという悲惨な事態を招きます。中流であっても貧困になる時代、この格差社会においてそのような“不利な人々”が生まれる原因として、低学歴や離婚などが大きな要因であることを示します。
そして現在の保険中心の制度が、実は貧困になるとそこからなかなか抜け出せない原因であると考えます。ここで言う保険とは、失業保険、年金、介護保険などのこと。各人がそれぞれ収入に応じて、政府など公的機関にお金を預け、公的機関は、そうしたお金をプールしておき、預けた人が例えば失業や高齢などの事態になった時、預けた額に応じて支援する仕組みです。多く預けたら多くもらえる仕組みなので、貧しくて預ける額も少ないと、支援の額も少なく、なかなか貧困から抜け出せないのだと言います。
著者は、むしろ反貧困政策に転換すべきとして、いろいろなアイデアを提案しています。例えば、働ける年齢層に対する失業扶助の創設です。これは、働ける年齢の人たちが失業した時、前もってお金を預けている人(=現在の失業保険)だけでなく、預けていない人も含めてどんな人にでも一定額の援助をする仕組みです。それと同時に、現在、公的に行われているのと同程度に長期間の教育・職業訓練の機会をどんな人にも保障する仕組みなどです。
正社員でなく、期間限定で雇われる非正規雇用の人たちやパートタイムの人たちの中には、働いてはいても、日々の生活で精一杯または生活にも困ってしまうような収入しか得られない人たちがいます。こうした人たちのことを「ワーキングプア」と言います。そのような人たちや、年金生活者を対象として、これも前もってお金を預けなかった人たちも含めて、住宅手当を支給する制度を作るように提案しています。
高齢で退職した人たちは、平均して今のところ現役世代の約半分の収入があるとされていますが、日本の高齢化が進んでいるため、近い将来40%しか受け取れなくなるといったことが報じられています。年金生活者の貧困も問題になっているのです。
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