ふくろう先生の新書探検隊

第1回 貧困・格差を考えよう

『弱者99%社会 日本復興のための生活保障』

宮本太郎:編(幻冬舎新書)

編者は、北海道大学大学院教授(現在は、中央大学法学部教授)で、専門は政治学。政府の「安心社会実現会議」委員で「社会保障改革に関する有識者検討会」の座長を務めました。本書は、2010年から2011年の6回にわたるBSフジの報道番組「プライムニュース」のシリーズ企画「提言“安心社会・日本”への道」での議論をもとに書かれました。

雇用、保障、子育て、財源などから安心な社会への提言

各界の専門家数名ずつとの議論を基にまとめた対談集。

 

1章では、経済成長や雇用、保障について、社会福祉法人浴風会理事長の京極高宣、東京大学大学院教授(現在は、立正大学経済学部教授)の吉川洋との対談です。イノベーション(経済発展のための技術革新など)によって輸出を増やし、また国内では介護はじめ保健に関係する事業を広げて雇用を作り出す努力が必要であると話しています。

 

2章では、働く現役世代の労働・生活環境について、独立行政法人労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎、反貧困ネットワーク事務局長/NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局次長(現在は、法政大学現代福祉学部教授)の湯浅誠との対談です。ワーキングプアや非正規雇用などの問題に対して現役世代を支える保障の充実を訴えています。

 

3章では、富山市長の森雅志、千葉大学人文社会科学研究科教授の小林正弥との対談です。共同体意識が薄くなる中、お互いのきずなが強く望まれています。地域の中のつながりを作り、強くするための試みを提案しています。富山市では、行政が地域に密着したサービスをすることを重視しています。「地区センター」という行政サービスの窓口では、一窓口あたり職員を平均4.3人配置し、市民平均5300人を担当して、大変キメ細かなサービスをしています。5000人くらいなら、お互い顔も十分わかりますね。ちなみに、全国中核市の平均は2万4000人ですから、違いが明らかです。

 

4章では、衆議院議員の泉健太、精神科医/元衆議院議員の水島広子との対談です。子供をすこやかに育てるために、子供手当はじめ子供に機会を平等に与える社会をどうやって作るか、議論します。幼稚園と保育所を一体にしたこども園の新設や、教育費の支援のことを提案しています。

 

5章は、財源について、東京大学社会科学研究所教授の大沢真理、慶應義塾大学経済学部教授の土居丈朗との対談です。いろんな政策を実行するにはお金がかかります。保険料、所得税(高収入の人からはより多く徴収しようという累進性を大きくするなど)、消費税(現在の8%から、近いうちに20%などに上げざるを得ないが、その使い道に工夫が必要であるなど)のあり方などについて話し合っています。

 

6章では、政策を実行するための政治をどうするかについて、衆議院議員(現在は引退)の藤井裕久、衆議院議員の与謝野馨(平成29年逝去)との対談です。国会をはじめ、どのように政治をマネジメントするか、などを話し合っています。

 

 

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高校生からもひとこと

社会福祉や介護は雇用効果が大きいが人手不足

 

この本では、日本の経済を活性化させるために、「社会保障の充実を経済成長のバネにする」ことを提言しています。社会保障には、100兆円以上のお金が株や債券に使われ、経済の潤滑油として大きな役割を果たしています。しかし、2015年の年金運用損失が約5兆円ということで、年金制度は大丈夫だろうかと思っていました。ところが2014年は約15兆円の利益が出ており、一喜一憂するものではないと思いました。年金積立金は国民の財産なので、慎重に運用してもらいたいですし、関心を寄せていきたいです。

 

社会福祉や介護は、他の産業と比べ雇用効果が大きいです。そこで、社会福祉や介護に従事することで失業者を減らせば、弱者と呼ばれる人たちが少なくなると思います。しかし、介護の現場は人材が不足しています。その理由として、仕事がきついことや、給料が低いことが挙げられます。人材不足だと一人当たりの仕事がきつくなり、さらに離職を招き、慢性的な人材不足を招きます。仕事のきつさの苦労を補えるくらいの給与を支給し、人手を増やし働きやすい環境を作ることが大事だと思いました。(丸山はるかさん)