ふくろう先生の新書探検隊

第1回 貧困・格差を考えよう

『貧困についてとことん考えてみた』

湯浅誠、茂木健一郎(NHK出版新書)

湯浅誠:社会活動家、「反貧困ネットワーク」事務局長、NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事(現在は、法政大学現代福祉学部教授。専門は社会福祉学)、2008年末「年越し派遣村」の報道で知られます。

茂木健一郎:専門は脳科学・認知科学。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、脳と心の謎に挑む脳科学者で、テレビ出演も多数。

困っている人たち、一人ひとりをサポートする体制を

ホームレス支援の「年越し派遣村」の活動をはじめ、内閣府参与の時にいろいろな政策提言を行ってきた湯浅氏が、創設にかかわったパーソナル・サポートを中心にした訪問記の形で対談しています。

 

まず、パーソナル・サポートとは、どんなものでしょうか。何らかの理由(失業、病気、災害など)で、一度生活の歯車が狂い始めると、貧困や病気などの複合的なトラブルを抱え込み、そこから抜け出せなくなる人が多くなっています。その人たちを支援する制度などはそれぞれあるにはありますが、そこに行きつくまでのサポートをする人が今はいなくなっているようです。だから、ハローワークに行って、病院に行って、職業訓練所に行って、など各個々人が多くの制度やサービスや機関のことを知っていて、それぞれに対応しなければならなくなりました。昔は、家族や地域がそのような面倒をみてきたのかもしれません。しかし、今はそのような能力が社会で弱まっているようです。

 

そこで、困った状況になった個人一人ひとりを、パーソナルにサポートする体制が必要だと考え、パーソナル・サポート・センターが生まれました。パーソナル・サポート・センターの人が、困った状況になった個人に付いて、いろいろな制度やサービスのことを案内し、困った状況から抜け出す手助けをする制度です。

 

今回は、釧路、豊中、沖縄を訪問した際のインタビューや対談を記録しています。どこもユニークに、誠実に、困った人たちのサポートをしようと頑張っているのが伝わってきます。そして、やはり『弱者の居場所がない社会』でも取り上げたような「居場所」の問題、つまり「あなたでいいんだ」ということが重要なようです。このような試みを含め、地域で人々を支え合っていけるような社会になって欲しいと願わずにはいられません。

 

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高校生からもひとこと

居場所づくりや、人と人とのつながりを大切に

 

感銘を受けた言葉は、「『自己責任論』とは同じ社会の一員としての自覚に欠けた社会的無責任論である」。

 

一人に対して、様々な分野の人や地域を超えた広域的な共同支援が必要であり、なにより「居場所づくり」が大切。本書に出てくる「パーソナル・サポート」の取り組みによって、生きる気力がなかった人や生活に難がある人などが減っていくと思う。周囲の人や地域などで支え合い、またそれだけにとどまらず、社会全体がもっと人と人とのつながりを大切にすべきだと思う。(千葉美優さん)