ふくろう先生の新書探検隊

第2回 地球温暖化問題に挑もう

『異常気象と地球温暖化 未来に何が待っているか』

鬼頭昭雄(岩波新書)

筑波大学生命環境系主幹研究員で、気象学が専門です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第一作業部会第二次~第五次評価報告書の執筆者を務めました。

永久凍土の融解、アマゾンの森林枯渇で温暖化が加速。温室効果ガスを抑える技術開発を提言

最新の情報が書かれた新書だと思います。それまでに出されたいろいろな反論に対しても検証を行い、結局、二酸化炭素が主原因で地球は温暖化に向かっているとしています。

 

皆さんの実感からは、温暖化は本当らしいとお感じになっていることでしょう。私の若い時に比べても、冬の雪も少なくなり、夏も暑くなっていると思います。都市部のヒートアイランド現象による見かけの地球平均気温上昇などといった反論も含め、慎重に検証しています。そして、シミュレーションにより、二酸化炭素濃度上昇を抑える程度に応じて、近い将来起こりうる、気温の上昇(2100年、1000 ppmで4度の上昇)、熱帯の広がり、降水量の差の拡大(つまり大雨の降る地域と、砂漠化が進む地域が両方とも広がる)、雪氷圏(雪や氷で覆われる面積)の縮小、海洋酸性化(これでプランクトンや珊瑚など海洋生物が大きな影響を受ける)、海面水位上昇(1度あたり、0.2~0.6メートルの上昇と予測。「海に沈む島」としてツバルがテレビなどで紹介されている)などが取り上げられています。

 

さらに、その影響が、人々の暮らしにも出始めているとしています。生態系や文化への脅威、極端な気象現象、不利な条件下の人々にはより深刻な被害をもたらす危険性があること、そしてそうした効果が積もり積もって、大規模な特異事象を引き起こす可能性があることなどを論じています。大規模な特異事象とは、ある程度以上の温暖化により、もはや後戻りさせることができない段階に入り、不可逆的に大きな変化に至ってしまう事態のことです。例えば、永久凍土の融解で温室効果ガスのメタン排出が加わって相乗的に温暖化が進んだり、二酸化炭素吸収に大きな役割を果たしているアマゾンの森林が枯渇すると、二酸化炭素濃度の上昇が加速したりするということです。

 

そしてもちろんこれまでの技術をさらに進めて二酸化炭素排出を抑える努力をしつつ、出現した効果を軽くするための方策(防災設備・施設、貧困対策など)を採りつつ、さらに新しい技術開発の必要性を議論しています。例えば、ジオエンジニアリング(気候工学)を用いて人為的に地球を冷やすこと(太陽放射管理:大気最上層の成層圏にエーロゾルを注入して太陽光を遮断し地球を冷やすなど)、大気中から二酸化炭素を除くこと(二酸化炭素除去:鉄分を海洋に散布して、プランクトンを増やし、光合成を促進する方法など)などが議論されているようです。しかしそれは生態系や社会にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、それらの有効性と副作用を慎重に検討する必要があるとしています。

 

この地球規模の危機に際し、今後もその検討、解決策の模索、技術開発などにおけるいろいろな研究が必要であり、若い力の参加が待ち望まれています。

 

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高校生からもひとこと

気象庁の大気モデルなど、進む気候変動の予測研究

 

地球温暖化対策に様々な研究や取り組みが行われていて、アプローチ方法はたくさんあるとわかった。気候モデル(気候システムの将来変化の数値シミュレーション)は世界中の研究者がより良いものを目指して研究を続けている。気象庁では、世界全体を20kmの格子でカバーする高解像度大気モデルを開発して、気候予測実験を行っている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では気候変動に関する科学研究から得られた最新の知見を評価しまとめている。

 

一度変わってしまったことは簡単に戻すことはできないので、今食い止めることが大切だ。しかし、自分がやらなくても誰かがやってくれると思っている人は少なくない。すべての人がちゃんと問題に向き合うことが重要だと思う。(5月の風 さん)

 

二酸化炭素排出量世界第5位の日本にできることは?

 

このまま地球温暖化が進展していったとすると、高温変動の多発、熱帯地域の拡大、海面水位の上昇などが起こる。また、世界平均降水量の増加、場所によっては干ばつによる食糧不足も生じる。多くの野生動物が減少、絶滅する危険性もある。

 

地球の平均気温上昇を2℃以下に抑えるためには、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年に2010年の半分まで抑え、さらに21世紀末にはほとんど0にする必要がある。日本の二酸化炭素排出量は世界の第5位(2008年)で、世界の排出量の4%を占めている。そんな日本だからこそ地球温暖化についてもっと考えるべきだと思う。では僕らができることに何があるのだろう。(井熊勇介くん)