ふくろう先生の新書探検隊
第3回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう
<その1>資本主義を考えてみる〜まずは基礎
『高校生のための経済学入門』
小塩隆士(ちくま新書)
一橋大学経済研究所教授で、公共経済学が専門です。
家計は効用の最大化、企業は利潤の最大化を目指す

本書は、消費者や企業の行動、市場メカニズムなどについて研究するミクロ経済学と、政府の経済政策を含む経済全体の動きについて研究するマクロ経済学について、経済学の初歩を学ぶ人にわかりやすく紹介する入門書です。
ミクロ経済学では、家計は「限られた予算で効用(役に立つこと)の最大化を目指す」という前提で物事を考えます。例えば、品物(財やサービス)は価格が上がると人々が買わなくなるので需要が減ります。需要の減り方は財やサービスによって異なり、その性質を価格弾力性といいます。
一方、企業は利潤(もうけ)の最大化を目指すので、価格が上がれば供給を増やします。利潤とは売り上げから生産費用を引いたものですが、平均費用(品物一個分の生産費用)は、ある生産量以上になると、設備などが余分に必要になるため高くなります。そこから利潤が最大になる生産量を決定でき、その時価格は限界費用(品物一個分の生産を増やしたときに増える生産費用)に一致します。
こうして、家計は効用の最大化、企業は利潤の最大化をそれぞれ目指すだけで、自然と市場における価格が決まります。それを均衡価格といいます。こんなことを研究するのが経済学なのです、として詳しく謎解きをしてくれています。
マクロ経済学については、まず、景気がよくなるとは、「売れ行きがよくなる」「生産が増える」「所得が増える」こと、経済成長のためには、労働力、工場などの資本ストック、技術進歩が必要であることを述べ、現在の日本の経済状況についても解説します。
次にお金の回り方についてですが、お金には「すぐに使える」という特徴(流動性)があります。また、お金は交換手段であると同時に、富を貯蔵する機能も持ちます。そして世の中に出回っているお金の総量をマネーストックといい、名目GDPをマネーストックで割った値を、貨幣の流通速度といいます。面白い見方ですね。どれだけお金が頻繁に人手に渡ったかの指標であり、世の中が金余りなのかどうかの判断に使えます。そして企業が資金を調達するには、株式や社債の発行による直接金融と、銀行が預金者のお金を企業に貸す仲介をする間接金融について述べて、世の中のお金の流れを説明します。
その理解の上で、金融政策を概観します。銀行は、日本の中央銀行である日銀に無利子でお金を預ける当座預金を持っていますが、日銀は、銀行が保有する国債などを買い上げたり、逆に国債を売ったりして、当座預金の額を上下させます。すると銀行が使えるお金が増減し、私たちが使えるお金の量も変化します。その他、預金準備率などによってもお金の流通量を変化させることができます。そしてお金は一度日銀から銀行に出ると、預金と貸し出しを繰り返すことによって、流通量はもとの量よりずっと増えます(信用創造といいます)。日銀はこのような金融政策によって、景気や物価をコントロールします。最近のアベノミクスにおける日銀による量的・質的金融緩和の話題にも触れています。
最後に税金と財政のあり方について、触れています。「大きな政府」(福祉の充実など政府が国民の面倒をよくみるが、その分税金が高い)対「小さな政府」(税金は安いが政府は国民の面倒をあまり見ない)の問題、直接税(所得税・法人税など)と間接税(消費税など)の問題や財政赤字の問題(日本は約千兆円も赤字です)も議論しています。これらは皆さんの将来に関わる政治がらみの問題ですので、しっかり勉強してほしいと思います。
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高校生からもひとこと

お小遣いの使い方も経済活動。最もハッピーになるには
この本では、経済学の理論ではなく、現実の経済問題の解決に経済学の考え方がどのように生かせるかという実践的な面を学ぶことができる。
経済学とは、個人、企業、政府がどのように選択、行動し、それによって社会の資源がどのように使われるかを研究する学問である。経済学というと、専門的なイメージがあるが、自分のお小遣いの使い方も経済活動の内に入ると考えると、とても身近なものに感じる。
例えば、親からお小遣いを1000円もらったらどのように配分するだろうか。1000円が使えるおカネの上限であり、この予算制約の下で買い物をする。解決するポイントは、どうすれば自分にとって最もハッピーになるかという視点を持つこと。利用できる資源が限られているからこそ、それをできるだけ効率よく使おうという発想が出てくる。この効率性の追究が経済学の大きなテーマである。(影山理子さん)

水とダイヤモンドのどちらがほしいか
もし自分が砂漠にいて、水を手に入れる場所が周囲にないとき、水とダイヤモンドのどちらかがもらえるなら、どちらをもらうか。これは、「使用価値と希少価値」に関する有名な例え話で、モノの価値はその物自体の希少価値だけではなく、時と場合にもよるということ。資源が有限であるという希少性は、限られた資源をどう選択するかという経済学において、重要なポイントである。(榎本輝くん)

人口の成長を前提とした経済政策
著者は、本書を書いた理由のひとつとして、「経済学部のレジャーランド化」を挙げている。特に目的意識のない学生が経済学部には多く集まっているという。そんな現状を憂い、高校生に経済学部に対する確かなイメージを持ってもらうためだという。
この本を読むと、普段ニュースで出てくる経済に関するわかりにくい単語もすぐに理解することができる。著者は、今の経済対策は人口の成長を前提とした経済政策になっていると指摘しており、核心をついていて面白いと思った。(長谷川諒弥くん)

制約の中で最適な行動を探すことが経済学
身近なあらゆる事柄が経済学で考えられるという話を読んで、「経済」に対する理解が変わった。例えば使えるお金には「上限」があり、それを超えて買い物することはできない(予算制約)。このなんらかの制約の中で最適な行動を探すことが経済学の発想。(よって、『ちびまる子ちゃん』に登場する花輪くんのような、無限に親からお小遣いをもらえる人には経済学は無用。)(若林美波さん)

景気の好循環のために日本製品を積極的に買おう
日本経済の将来を考えるための第一歩にしたいと思い読んだ。日本銀行が行っている金融市場の安定化のための施策に興味を持った。また、アベノミクスによる景気の好循環と、その効果についても関心が湧いた。消費者がおカネを貯め込んでしまうと経済は回らなくなってしまう。どんどん買い物しよう、そしてその時には日本製品を積極的に買いましょうと呼びかけたい。(國谷涼太くん)

食糧の自給率や地域格差の問題を経済学から考えたい
この本は、ミクロ経済からマクロ経済までわかりやすく説明されている。ミクロ経済とは、消費者や企業の行動、市場メカニズムの動きなどを学ぶ分野で、マクロ経済とは、経済全体の動きを把握し、政府の経済政策の在り方を議論する分野である。特に、需要と供給の説明が、わかりやすく面白かった。私は、食糧の自給率問題や、地域格差の問題に関心があるので、経済学を通じてこれらの問題を考えてみたいと思った。(湯浅真菜さん)

負担の先送りは見逃せない
大学では経済学を学びたいと思っている。この本では、普段ニュースに出てくる経済に関するわかりにくい用語が理解できる。日銀の行っている貨幣を増やす方法は、新しい発見だった。たくさんの話の中で、一番気になったのは格差についてである。現状の所得の格差や貧困問題も挙げられるが、時をまたいだ負担の先送りも私たちの将来に関係していることなので、見逃せない。
著者は高校生のうちは、政治や経済より、自然科学や古典、歴史に親しんだ方がいいのではと告白しているところに、著者の人柄が感じられて面白かった。(サミー さん)

価格競争は厳しいが、大きなメリットも
「大きな政府」がいいか「小さな政府」がいいかといった話題や、価格競争に関する話題に興味が湧いた。「競争」には冷酷な側面があるが、大きなメリットもある。企業が価格を引き上げようとすると、お客を他の企業に持っていかれる。企業が競争の波にさらされていることは、消費者にとっては大変ありがたいことだ。(伊藤柾道くん)