ふくろう先生の新書探検隊
第3回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう
<その1>資本主義を考えてみる〜まずは基礎
『もうダマされないための経済学講義』
若田部昌澄(光文社新書)
早稲田大学政治経済学部教授で、専門は経済学史です。
先立つものはお金だけれど、ない袖はふれない

経済史を土台に、経済学を紹介しています。経済とはどういうものか、全体像をつかめるようになると思います。本書は、「インセンティブ(やりたいという気持ちを引き出すもの)」、「トレード・オフ(予算、資源、時間などやりたいことをやる上での制約)」、「トレード(交換、交易、貿易、取引)」、「マネー(お金、資本)」という代表的な概念について、歴史の例をひきながら、4回の講義形式で解説します。
第一講義「誰もが好きなことをしたい」は、インセンティブについてです。まず筆者は、「経済成長は望ましいのか」という問いに対し、様々なデータから、「経済成長は望ましいと言えそうだ」と述べます。そして、「人間のインセンティブを繁栄の道につなげられるような“制度”ができるかが重要である」という考え方を紹介します。
江戸時代は、環境に優しい定常社会(ゼロ成長社会)と言われますが、実は平和が保たれたおかげで「豊かになるインセンティブ」が働き、経済は成長しました。また、幕末の開国以降、日本の経済が飛躍的に成長したことを例に、分業による効率化、つまり「皆が得意なことに特化したほうが全体の生産が増す」という比較生産費説(比較優位説)を説明します。
第二講義「しかし、ない袖はふれない」では、富の再分配とトレード・オフについて、日本の産業政策の歴史を例に解説します。
戦後の高度成長期、当時の通産省の官僚は、産業を育成するために、限りある国のお金を、成長産業へのてこ入れと衰退産業の補助に投入しましたが、結局は、官僚主導の産業育成はできない、または、むしろ害が大きいという結果になりました。
続く田中角栄元首相の日本列島改造論は都市の富を地方に再分配する政策でしたが、失敗し、現在でも都市と地方の格差は埋まっていません。また、現行の年金制度についても、「年金資源が不足したため老年層が我慢するか、若年層が大きな負担をせざるを得ない」というトレード・オフの関係に陥っていることを示します。
第三講義と第四講義「先立つものはお金だI・II」は、物価と景気とマネーの力に関する話です。お金の需要・供給とインフレ・デフレの関係に加え、国際通貨制度について説明します。
国際通貨制度とは、例えば円をドルなど外国の貨幣と交換するときの仕組みのことです。その1つ「金本位制」は、お金と金(きん)を実際に交換できる制度(額面いくらのお金で何gの金と交換)です。今は不換貨幣で、金と交換できません。
本書ではここで、国際通貨のトリレンマと言われる難しい関係を説明します。国際通貨制度では、「資本移動の自由」「固定相場」「物価の安定」の3つの要件が上手く結びつくのが望ましいのですが、一国では、このうち2つをとれば、3つ目はコントロールできなくなるのです。
19世紀末、多くの国が金本位制にしたところ、金の需要が高まり、金の価格が上昇、それに伴い物価が下落して、各国はデフレになりました。金本位制では貨幣の量は金の量によって制限されるので、金融政策が取れずに物価をコントロールできません。少し以前のブレトン・ウッズ体制という国際的な仕組みでは、資本移動の自由が叶いませんでした。世界は国際通貨制度を模索し、現在は、固定相場をあきらめて、変動相場制に至っています。
そして筆者は、歴史の教訓と経済学の基礎を基に、リーマン・ショック後、日本がデフレから脱却できていない状況をみて、インフレ目標を掲げて、マネーの供給量を増やすべきだと提案します。
皆さんも、経済の原理や歴史を研究して、これからの世界の設計を提案してみるのもいいかもしれませんよ。
高校生からもひとこと

経済発展は、人々の「インセンティブ」の結果
経済史は、過去の経済政策の失敗と成功の原因をつぶさに分析して教訓を生み出す。それ以外、現在と未来への確実なヒントはない。本書は、4つの概念(インセンティブ、トレーオフ、トレード、マネー)に絞り、主に昭和の戦前と戦後の経済史に題材を取りながら、経済政策とその帰結の分析を行っている。
1929年の大恐慌において、各国の金融政策のスタンスの違いによって経済回復が異なっていたこと。巨大な経済発展が遂げられるのは、人々のインセンティブを経済活動の向上につながる仕組みを上手く創り出したからだということ。一方、政府が成長産業を見つけることは至難の業で、日本でそれが成功した証拠は薄いということなどを知った。(小関航平くん)

「なぜ貧しい国は貧しいのか」はノーベル賞級の超難問
この本は「インセンティブ」をいう言葉をキーワードに話を進めていく。「インセンティブ」とは、「やりたい気持ちを引き出すもの」。そこに、「トレード・オフ」という一定の制約をつけるという考え方を出し、経済学らしくなってくる。経済成長はなぜ起こるかという問いに対して明確な答えはないのだそうだ。逆に、なぜ貧しい国は貧しいのかを答えることができたら、ノーベル賞10個ぐらいのレベルだと書いてある。そのくらい難しい問題を考えていく学問だということがわかる。(藤巻夏彦くん)

経済学的な考え方に違和感
普段ニュースを見ていても、経済の用語が難しく、何を言っているのかわからないので、理解したいと思い、この本を手にとった。経済の話が難しいのは、用語が難しいだけではなく、経済学的な考え方に違和感を持っているからでもある。
「なんでもできる人」だけでは、世の中は回らない。何でもやってしまうのではなく、得意な産業に特化するのがよいと思う。(角倉成美さん)