ふくろう先生の新書探検隊

第3回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう

<その2>貨幣って何だろう

『金融史の真実 資本システムの一〇〇〇年』

倉都康行(ちくま新書)

RPテック代表取締役、産業ファンド投資法人執行役員、マネタリー・アフェアーズ誌編集人で、東京銀行入行して資本市場業務に従事していました。

金融のあるべき姿と国の役割を提案

遠隔地貿易から利益を生み出す商業資本主義は、12世紀に都市国家ヴェネチアなどで始まりました。そして地中海の商業圏と北方の商業圏を結ぶフランスのシャンパーニュ地方で開かれた大規模な定期市では為替手形が登場し、国際金融システムを作り出しました。また、戦争に明け暮れる国王たちへのお金の貸し倒れに備えて、当時からリスク計算が重要視されていました。

 

第一部では著者は、主役の交替とリスク計算という観点から、資本主義を時代区分します。第一期は、12-15世紀の民間資本の時代で、当時海上貿易には大きな危険が伴ったため、海上保険が生まれました。大航海時代の15-17世紀は第一期公有化の時代で、王室から独占して貿易ができる権利を与えられた、東インド会社のような特許会社が生まれました。そしてこの時期に、先物・オプション取引が始まりました。

 

18-19世紀は、第二期民間資本による、自由経済の時代です。英国で産業革命が起こり、火災保険など各種保険や年金制度が始まりました。19-20世紀半ばは、植民地主義(帝国主義)による第二期公有化の時代です。その後大恐慌・第二次世界大戦を経験し、証券の信頼性の格付けや投資理論が登場しました。

 

そして、1980-2006年にかけて、第三期民間資本の時代を迎えます。この時期、グローバリゼーションが進行して、様々な金融商品(デリバティブズ)が考案されました。しかしこれが行き過ぎて、リーマンショックが起こり、世界金融危機と世界同時不況をもたらしました。そして筆者は2007年以降を第三期公有化の時代とし、各国の中央銀行が物価を支配し、財政赤字を抱えながら異次元の量的・質的緩和政策を行っている時代、人々のリスク感覚が崩壊した時代だと分析します。

 

第二部では、資本主義システムが危機を回避できない理由を説明します。

 

デリバティブズと呼ばれる金融商品は、はじめはリスク管理のために生まれましたが、安易に多大な利益をもたらしたことで、ブレーキがかからなくなってしまいました。格付けの低い、アメリカの低所得者向け住宅ローン「サブプライムローン」をも組み込んだ証券が作られ、世界に販売された結果、住宅バブルがはじけて不良債権化したのはその象徴です。

 

各国の財政赤字も問題で、アメリカは、オバマ大統領の任期中に二回も、国債の元本や利払いが危ぶまれるデフォルト危機が起こりました。そんな中、アメリカの中央銀行であるFRBは、ゼロ金利政策をとり、景気浮揚をもくろみました。そして現在、世界中で公共事業などの財政出動がなされ、低金利政策がとられています。

 

第三部では、著者は金融のあるべき姿を提案します。近年、各国の銀行が合併によって巨大化しています。巨大化すれば、破綻しても政府による救済が期待できるとの目論見があるようです。しかし著者は、一企業としてつぶすべきはつぶすべきだと提案します。中央銀行についても、間違うこともあると注意を喚起し、現在、資金需要が乏しい中、低金利で供給するマネーも、資産バブルの再燃につながるのではないかと心配します。

 

最後に著者は、経済成長が今後も人類の生活水準の向上にとって不可欠だとし、また、本来、資本主義の下では、蓄積した矛盾は不況などで修正され、さらに強い合理的なシステムに生まれ変わることができるはずだと考えます。しかし現在の国による危機回避政策は、より強いシステムへの脱皮の機会をつぶしてしまっているのではないかと憂慮します。そして国の役割は、銀行破綻などによる金融危機も含め、当事者負担において処理しうる体制づくりと、少しでも債務残高を削減することだと訴えます。

 

皆さんも、金融を理解することで、現在の世界経済の問題を分析する力、将来を見通し、あるべき姿を描けるようになると期待します。

 

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高校生からもひとこと

国債の問題は国民一人ひとりが知るべき

 

この本では、国債を救う方法が提示されている。政府が行っている方法は、インフレにして、国債の価値を減価する方法である。あまりにもゆっくりで、減価もわずかなので国民も意識しないで済む。現実的な方法だと思った。国債の問題は国民一人ひとりが興味を持ち、知る必要があると思う。

 

この本は難しい言葉が多くて理解することが難しいところがいくつかあった。だから日頃から新聞を読んでみようと思った。(星野日菜子さん)