ふくろう先生の新書探検隊

第3回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう

<その2>貨幣って何だろう

『「お金」って、何だろう? 僕らはいつまで「円」を使い続けるのか?』

山形浩生、岡田斗司夫 FREEex(光文社新書)

山形浩正氏;大手シンクタンク会社勤務で、科学、文化、経済からコンピュータまで広範な分野の翻訳、執筆を行っています。岡田斗司夫氏;アニメ会社ガイナックスを設立。評価経済社会の実施を試みる団体FREEexを運営しています。

 

「貨幣」の代わりに「評価」が経済の中心になるのか

貨幣経済社会に懐疑的で、貨幣の代わりに「評価」を用いる評価経済社会の実施を試みている岡田氏と、途上国の経済援助にも携わる評論家である山形氏が、今のお金の本質を明らかにしようと対談しています。

 

お金の役割というと、交換を楽にする媒介手段を思い浮かべるかもしれませんが、もっと重要な役割として価値を貯める手段という機能があります。なぜなら、お金ならどんなものとも交換できてとても便利なため、ものを蓄えておくよりも、お金に換えてお金を貯めておこうと皆が考えるからです。これをお金の交換価値といい、最近はほとんどの人が、この見方に賛成しています。著者らは「約束事としてお金にはそういう価値があるとしておきましょう」という立場です。その上で、お金にまつわる出来事、不都合、そしてお金の代わりになる何かいいものがないか、さらにはお金の背後にあるもっと大事なもの(取引とか交換とか、人間同士の価値のやりとりについての本質)へと議論を展開します。

 

さて、国の景気は、景気の状況によって為替レートが変動することで、好景気と不況をいくらか緩和することができます。つまり、各国の通貨が異なれば、景気のいい国の通貨を景気の悪い国の通貨と交換するときに、為替レートが変わります。そして不況になって為替レートが安くなると、輸出する品物が相手国では安くなるので、売れやすくなり、自分の国の産業が盛んになって景気も回復します。ところがヨーロッパ諸国は、EUを設立して、加盟国で使われる通貨を、ユーロという通貨に統一しました。これによって、為替レートの変動による景気の調整が働かなくなってしまいました。これが、2010年からのギリシャ危機のような問題につながっているのです。そして著者たちは、地域通貨やお金のない社会などに触れながら、結局お金が国を形作っているのではないかという結論に至ります。

 

対談は、国の政策の話に移り、公共事業や日銀と政府の関係などにおよび、日銀の廃止や銀行の国有化などいろいろな話題を巡っていきます。

 

次に世界の未来について。将来、世界の生活レベルは、今の日本並みになっているだろうと想像しています。すると、皆モノを欲しがらなくなって、お金の出番が減り、「貨幣」の代わりに「評価」の高い・低いが重要になるとし、岡田氏はそれを「評価経済社会」と呼びます。インターネットのおかげで、お金がなくてもモノやサービスの交換が可能になるだろうと期待しています。そんな社会の組織や景気や企業のあり方を語りながら、現在の貨幣経済社会との違いを浮き上がらせますが、私は読者の一人としては、現実化は難しそうに感じました。

 

読者のそうした感想を予想していたかのように、第4章で、岡田氏がはじめた、評価経済の可能性を実験するFREEexという仕組みが語られます。岡田ファンクラブのような組織で、年12万円の会員費、パトロン制+ボランティア制にいくらか「投資」の要素も取り入れたようなシステムだそうです。経済的にも支え合えるシステムにでき上がってきたそうです。何か面白そうな試みで、成功を祈らずにはいられません。

 

次の5章は格差の本質についての議論ですが、山形氏の経験豊富な経済援助の話を軸に対談しています。経済援助における苦労や成功例などが語られますので、そういう活動に興味がある方には、参考になりそうです。

 

最後の章は、自由時間経済学への序章というタイトルです。評価経済社会も含め、今後のくらし、経済、そして幸せのあり方はどうあるべきかを対談します。豊かになり、多様な生き方ができるようになってきたおかげで、それぞれに合った自由な生き方が求められるようになってきたと考えています。それを名付けて、自由時間経済学とのこと。ヒマな時間を多く作ることが仕事。勝ち組はヒマな人だそうです。どんな社会になるのでしょうね(笑)。

 

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