ふくろう先生の新書探検隊

5回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう

<その3>資本主義はこれからも続くのか

『新・世界経済入門』

西川潤(岩波新書)

著者は、早稲田大学名誉教授。専門は経済学史、開発経済学です。

国家主導の経済システムは行き詰ったのか

本書は、世界秩序が今転換期にさしかかっているという認識に立って、現代の世界経済を詳細なデータを用いて分析し、日本はどのような選択が可能かを検討しています。

 

まず序章「世界経済の二重の危機」では、第二次世界大戦以降の世界経済の動向を概観したあと、現在の世界経済を、1)先進国での過剰流動性(マネーのだぶつき)の使い道が見出せなくなり、膨大な資金が国境を越えて動いている。2)そこから市場の失敗を示す経済危機が起こっている。3)政府は金融機関や市場を救済するために財政能力を動員しているが、いまや先進国の低い経済成長は国家債務の増加によってかろうじて維持されている。4)世界的に環境の悪化が続き、貧富格差など社会分裂が拡大している。と課題を挙げ、本論へと誘います。

 

「 I.進行するグローバリゼーション下の世界経済」では、世界経済の諸様相を貿易、投資、通貨の面から検討します。そしてグローバル化に対抗する動きとして、国益優先、物質優先に対抗する市民意識に沿った市民運動の広がり、TPPなど地域主義の進展、テロリズムの拡散が生じたと述べます。また、戦後の貿易の動向と、GATTやWTO、様々な地域貿易協定といった貿易協定の歴史、多国籍企業の誕生と変遷について解説します。

 

そしてヘッジファンドによる莫大なグローバルなマネー操作がアジア通貨危機やギリシャ危機などを招いたことや、多国籍企業による進出先国での悪条件での労働の強制、公害の垂れ流しなど多国籍企業の弊害について述べます。

 

「 II.地球経済のベーシックス」では、世界経済に大きな影響を与える、人口、食料、エネルギー資源、地球環境の現状と問題点を吟味します。人口問題については、都市人口の増加、高齢化、世界的な労働力の移動の面から検討し、食料問題については、食料の南北偏在の問題を論じます。エネルギーと資源については、石油をはじめとする枯渇性の天然資源と、森林や水、動植物類など再生可能な非枯渇性資源に分けて、それぞれ課題を論じています。

 

日本については、石油などのエネルギー自給率の低さ(10%程度)や、テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機など毎年2000万台も捨てられているといった廃棄物の問題にも警鐘を鳴らします。また、福島原発に絡んで、今後廃炉になる原発の廃棄物処理の問題など危機的かつ悲惨な状況を紹介しています。

 

「 III.南北問題の動向、グローバル軍事化、日本の選択」では、南北間だけでなく、南の世界内部で格差が増大していること、南の世界とともにアメリカが世界経済の巨大赤字地域であり、これが世界経済の不安定化の要因であることを指摘し、世界的な格差拡大と富者支配が現在の世界経済の発展の足かせになっていると分析します。関連して、EU、東アジア経済圏、移行経済圏(ロシアなどの旧共産圏)など現在の地域経済圏それぞれの歴史や現状も紹介します。そして、戦争やテロの拡大にともなって、軍事費予算は世界的に増大していることを示します。

 

その一方で、市民社会とそれに根ざす市民運動(NGOやNPOなど)が活発になり、これによって、社会が、民間企業による営利志向や政府による権力志向だけでなく、人々とのつながりや協力によって形成され、市民運動が政府の失敗、企業(市場)の失敗を是正する主体となり得ると期待しています。

 

最後に、ここまで検討してきた経済のグローバリゼーションの結果、戦後に日本経済の成長を保障してきた要因はもはや消失し、国家主導による経済システムが行き詰まっているとまとめます。

 

特に日本での福島第一原発事故は、経済発展優先、政府主導のガバナンスの危機の象徴と述べ、これを契機とした世界的な脱原発の動きは、「GDPよりも良い生き方を」という定常経済、社会発展への志向を示したものであると述べます。そして世界の先進地域で広がっている、新しい豊かさを身の回りから実現していく良い生き方の探究を、日本に対しても提言しています。

 

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