ふくろう先生の新書探検隊

5回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう

<その3>資本主義はこれからも続くのか

『世界金融危機』

金子勝、アンドリュー・デウィット:著(岩波ブックレット)

金子勝:慶應義塾大学経済学部名誉教授。アンドリュー・デウィット:立教大学経済学部教授で、政治経済学者です。

アメリカ戦後最大の金融危機を解析

本書は、2007年のサブプライム危機を契機にアメリカが戦後最大の金融危機に陥ったメカニズムを解析し、世界同時不況への警鐘を鳴らした1冊です。なお皆さんは、本書がサブプライム危機が起こった直後に書かれ、出版直前にリーマンショックが起こったことを前提に読んでください。

 

さて、サブプライム危機とは、低所得者向けの回収リスクが高い住宅ローンについて、元金と利息を支払ってもらう権利を担保にした証券をつくって(証券化)販売したところ、アメリカの住宅バブルがはじけて住宅価格が下落。その結果ローンの回収ができなくなり、その証券を購入した企業や人々が大損した出来事を言います。

 

このような状況が生じた背景を、著者は住宅ローンの証券化と「影の銀行システム」の崩壊によるものと説明します。「影の銀行システム」とは、おおまかには、銀行ではない、証券会社やヘッジファンドなどの金融機関が行う金融取引のことです。金融自由化によって、銀行も投資のための子会社を作って債券取引などができるようになり、証券会社もヘッジファンドなどを利用した証券取引を行うようになりました。こうした投資会社には銀行に科せられるような国の監督や規制が及ばないため、少ない資金でいくらでも大きな取引ができ、世界の信用取引は膨張していきました。

 

信用取引の膨張とは、金利が相対的に低い短期の債券を発行して資金を得、これで利回りの高い長期の債券を買って、この金利差を利用して儲け、さらに購入した長期債券を担保にしてまた短期の債券を発行し、また長期の債務担保証券を買うというようにいくらでも膨らませていくといったことです。しかし、信用のもととなった住宅バブルがはじけたために莫大な損失が生じ、金融の混乱が起こったのです。さらに、住宅ローンは複数の中小企業向けローンなどの担保証券とともに適当に組み合わせて証券化されたため、どれだけ損失があるのかわからなくなってしまいました。

 

アメリカ政府は、住宅バブル崩壊によって莫大な損失を被った金融機関に対し、アメリカの中央銀行に当たる連邦準備制度理事会が実質的な救済措置をとって経済の崩壊をしのぎました。

 

著者は、現代の経済は、新しい金融商品の開発などによるバブルと、その崩壊の循環を繰り返すという、アメリカの経済学者、ハイマン・ミンスキーの仮説を紹介しながらも、今回の状況はこれにあてはまらず、景気に信用収縮と景気後退の悪循環が始まったと指摘します。

 

そして、米国中心の「金融資本主義の破綻」という波と重なりあうように、世界は「石油の時代の限界」というエネルギー転換の長期波動のただ中にあり、原油や食料価格の上昇によるインフレ昂進が、家計消費を直撃し、景気をさらに悪化させて世界同時不況がやってくると指摘しました。つまり資産デフレ(価格下落)と資源インフレ(価格高騰)の同時進行という、経験したことのない特殊なスタグフレーションとなり、世界は新しい秩序に向かって産みの苦しみを経験していると位置づけます。

 

そして、次の章では、著者が批判的立場をとっている、ジョージ・Wブッシュ政権の戦争政策、反環境政策が、結果として戦後最大の不況を招いたとし、住宅以外の不動産担保証券の不良債権化、さらなる信用収縮、失業率増加、自動車産業の衰退へとつながり、アメリカの不況がヨーロッパ、そしてBRICsや発展途上国に連鎖すると予言します。そして日本については、ブッシュ政権に追従した小泉・竹中の構造改革路線がもたらした弊害〜輸出依存の脆弱な経済体質、格差拡大、財政赤字の膨張など〜を糾弾し、抜本的な政策転換を提言します。

 

2013年には世界同時不況は終わったとされていますが、著者たちには是非このような解析を継続して、将来への示唆を与え続けていただきたいと思います。

 

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