ふくろう先生の新書探検隊

5回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう

<その3>資本主義はこれからも続くのか

『資本主義の終焉と歴史の危機』

水野和夫(集英社新書)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官を歴任。現在、法政大学法学部教授。

「周辺」から利益を得尽くした今、経済は成長しつづけなければいけないのか

「資本主義の死期が近づいているのではないか」。そんな一文で本書は始まります。

 

本書の紹介に入る前に補足すると、マルクス経済学は、資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、資本家が品物や資源を安く買える植民地や発展途上国などの「周辺」で仕入れ、その時代の覇権地域、すなわち「中心」で高く売ることで儲けるシステムとします。

 

産業革命後には、資本家が資本で設備や原材料などを買い、労働者を雇って加工生産し、それを売って資本を回収し利潤を得るという、産業資本主義の社会になりました。

 

いずれの場合も、資本主義とは、「周辺」、いわゆるフロンティアを広げることによって、「中心」が利潤を得て資本を増やし、さらに投資する、すなわち、資本の自己増殖を推進していくシステムです。

 

さて、本書に話を戻すと、著者は、現在世界は資本主義の限界に直面しており、その経済システムが大きな転換を迫られていると述べ、これは、中世封建システムが近代資本主義システムに転換したのと同じ意味合いを持つとします。そしてその理由を、利子率、すなわち16世紀の当時のイタリア、ジェノバの4~5年物国庫貸付金の利子率が1.125%に低下し、超低金利が10年以上続いたことと、20世紀末から世界の先進国の国債が、かつてない低金利を記録している状況の比較分析によって説明します。

 

利子は、お金を借りてでも投資すれば利潤を得られる場(周辺)があるときには、貸し手は金利を高くしても借りてもらえますが、利潤を得られる場が少なくなり借り手が少なくなると、金利を低くせざるを得ません。つまり著者は、利子率の低下は、利潤を得られる「周辺」があらかた利用されてしまったことを示すと説明します。そして新たな「周辺」を開拓しない限り、資本の自己増殖は終わりを迎え、資本主義も終わりを迎えるとします。

 

さて、16世紀のヨーロッパでは、当時の「中心」のスペイン・イタリアがヨーロッパ内の「周辺」を利用し尽くしていました。そこで、大航海時代の幕開けです。冒険家たちが大海に漕ぎ出し、アメリカ大陸やインドという新たな「周辺」を獲得しました。「中心」の国々はその後、現在のBRICs、開発途上国とフロンティアを拡げながら、産油国の安い石油エネルギーなど「周辺」国の産品を利用して発展してきました。しかし1974年以降、先進国が高い利潤を得ることができるフロンティアはほとんど消滅しました。

 

この結果、投資家は、投資先がなくなったお金を、実物ではなく金融商品に投資することで、利潤を得るようになりました。そして、資本が国を超えて自由に移動するようになった現在、投資家は投資先をBRICsなどの新興国に求めました。しかし、新興国と先進国の差が縮小した結果、新興国も新たな投資を必要としなくなってきました。

 

また、日本の名目GDP(国民総生産)が1%増加したときの雇用者報酬(給料)の伸び率を見ると、1965年以降は1%前後、すなわち生産が伸びたら、その分報酬も上がっていたのが、2006年にはマイナスになり、企業利益と雇用者報酬は分離したと指摘します。

 

そして著者は、儲けられる「周辺」を見いだし得なくなった時代に、投資家は国内に「周辺」をつくり出そうとしていると考察します。つまり世界的に少数の者が利益を独占してしまう格差拡大社会の到来です。さらに新しいフロンティアとして、未来からの収奪、すなわち将来の人々が生存するために必要なものであっても、なりふり構わず利用してしまうことに手を染めざるを得ないのではないかと訴えます。

 

そこで著者は、経済は成長しなければならないという観念から脱却すべきだと主張します。それに向けての方法として成長のない定常状態の実現を提案します。若い皆さんの中から、経済の仕組みや社会の形を綿密に調べ、未来の世界を救う努力をしていただける方が現れることを願っています。

 

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高校生からもひとこと

資本主義が終わると社会はどうなるのか

 

今の世界全体は資本主義の終わりという大きな危機を目前としている。それは、今の状態だと投資する場がなくなり、資本家や企業の利潤率が低下し、サービスを向上させ経済を活発にすることができなくなるどころか、現時点でのサービスの維持すらできなくなってしまうことを意味している。今の時点で、資本主義が終わった後の経済社会は誰にもわからず、明確な改善案はない。終焉へと加速する資本主義にブレーキをかける手立てや、それに代わる経済活動のあり方を生み出さなければならない。(長命茜さん)

 

資本主義が終わり、「価値主義」が訪れる

 

18世紀の産業革命頃に確立したと言われる資本主義。それは今終わりつつあると言う。私たちは経済の常識が変わる、歴史的瞬間に立ち会えるかもしれない。

 

資本主義が終わるとき、次に訪れるのは「価値主義」だという予測もある(お金を中心とした社会ではなく、「価値」を中心した社会。)新しい経済主義が全世界に浸透するのには、どのくらいの時間がかかり、どのようなプロセスを経るのか興味を持った。(野崎陽日さん)

 

経済の形態の変化は私たちの生活に大きな影響

 

 「もうすぐ資本主義が終わろうとしている」という本書のテーマは、あまり身近に感じられないが、読んでいくと、経済の形態が変わることによって私たちの生活にも大きな影響があるのだとわかった。

 

私は経済学を活かした仕事として、商品をたくさん売れるようにするという、マーケティングの仕事に興味がある。自分のアイデアを商品企画や広告企画、営業戦略に反映させることができるやりがいのある仕事だが、そのためには、社会や経済の動向にもアンテナを張り、膨大なデータを収集し、仮説を立てて、検証を繰り返していくことが必要で、経済学、社会学、統計学の勉強をしておくとよいとのことだ。(東田珠希さん)