ふくろう先生の新書探検隊

5回 今の世界は資本主義による市場に支えられている?〜経済学に学ぼう

<その3>資本主義はこれからも続くのか

『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』

水野和夫、大澤真幸(NHK出版新書)

水野和夫:三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官を歴任。現在、法政大学法学部教授。

大澤真幸:社会学者で、2010年4月より個人雑誌『THINKING「O」』(左右社)を発行。

 

『桐島、部活やめるってよ』の桐島に覇権国アメリカをみる

資本主義について述べた書籍ですが、『資本主義の終焉と歴史の危機』の水野和夫氏との対談であり、内容は共通するので、資本主義に関しては『資本主義の終焉と歴史の危機』の紹介をお読みください。

 

その中で、私が大変示唆的だと感じた、対談相手の大澤真幸氏の話を引用しながら、大澤氏がこの資本主義社会の中にいる人々をどのように捉えているかを紹介しましょう。

 

朝井リョウという若い作家の小説『桐島、部活やめるってよ』が映画化されました。桐島というバレーボール部のキャプテンがいて、彼はバレーボールがすごく上手く、人望も篤く、女の子にもモテます。その彼が突然部活をやめると言い出すところから映画は始まります。彼は学校にも出てこなくなります。すると学校中が大騒ぎになります。彼は映画には一度も登場しないまま、まわりの人たちの様子が描写されます。

 

描かれる高校生活では、勝ち組と負け組がはっきりわかります。高校は、社会格差の縮図なのです。誰もが自分の属する方をわかっています。勝ち組は社交的で仲間を作るのがうまく、負け組は小さくまとまる程度しかできません。そして一番印象深いところは、当然負け組はみじめだけれど、勝ち組も負け組と同じくらいつらく、不幸であると描いている点です。

 

勝ち組の代表の宏樹は桐島の親友です。カッコいいし、女子にもモテます。野球部で、野球もうまいのですが、宏樹は部活をサボってばかりいます。試合もサボります。彼の感覚は、「俺が野球が得意だからっていったって、べつにイチローになれるわけでもないしさ」というものです。この感覚、きっとおわかりになるでしょう。そして、彼も含め、皆が桐島の部活への復帰を切実に願っているのです。

 

その理由について、大澤氏は謎解きをします。すなわち桐島は、運動神経、友人の信頼、恋人、学業成績、すべてを持っている勝ち組中の勝ち組です。この閉塞した高校生活の中で、彼だけが真に幸福で、救済されており、そのことで他の人たちも心理的効果を受けるとします。自分が鬱々とした気分であっても、桐島がいることで、自分も「救済されたことになる」。「少なくとも一人が、救済され幸福である」ということが、「他のすべての人も、救済され幸福になりうる」ということの保証になっているのです。

 

桐島が代わりに部活で頑張ってくれている、するとある意味安心ですね。宏樹にしても、桐島の仲間にしても、負け組にしてもです。その桐島が突然いなくなったのです。そこで大澤氏が引き合いに出すのが、以前のアメリカ、世界の中の唯一の覇権国です。その時代は仲間の日本も安心でした。でもそのアメリカがもはやガタガタ、桐島のように覇権国を降りるような状況です。皆さんは、その類似性は別にしても、桐島の存在、そして宏樹の感覚を想像してみてください。特にこの資本主義社会の中での。

 

そして、宏樹の気持ちを理解できる若い方々は、これからどんな生き方をしようとするのでしょうか。宏樹は桐島のような形での幸福をこの社会で求める気にならないとしても、ただ傍観しているだけでなく、きっと日常のいろいろな「サボりや遊び」を通してまわりを広く見渡し、自分が大人になってこの世界にどんな貢献をするべきかを模索しているのではないでしょうか。

 

今後も厳しい状況が続く人類社会で、科学技術の発展は不可欠なのですが、人文社会科学の発展もとても重要です。皆さんが、これから広い視野と見識を養い、人類社会に貢献できる活躍の場を見つけられますように、祈っています。

 

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高校生からもひとこと

資本主義から撤退できるのか

 

資本主義は当時発展していた中国ではなく、ヨーロッパで誕生した。その理由は、資本主義と密接な結びつきを持つキリスト教が関係している。資本主義は「周辺」というものが存在することで成立しているが、全世界で資本主義化が進むことで、周辺が減り、いずれはなくなってしまう。よって今必要なのは資本主義から撤退することだが、ところが資本主義は「撤退」に向いていない。「より早く、より遠くへ、より合理的に」を経済的な側面から最も効率よく実現できるシステムが資本主義であり、前へ前へが至上命令であるため、撤退は難しい。また。資本主義から撤退するためには、もっと魅力のあるシステムを見つけることが必要である。(中垣槙悟くん)